研究課題/領域番号 |
15K06150
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
足立 修一 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (40222624)
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研究分担者 |
井上 正樹 慶應義塾大学, 理工学部, 助教 (80725680)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 多変数制御 / システム同定 / 音響工学 / 立体音響 |
研究実績の概要 |
まず,頭部伝達関数の多入力システム同定のための最適入力設計問題について検討した。その第一段階として,対象を頭部伝達関数に限定せずに,一般的な多入力1出力(Multi-Input, Single-Output : MISO)システムの同定入力を,M系列に代表される二値系列から複数個の無相関な信号を作成する方法(このように生成された信号は巡回シフトM系列と呼ばれる)について検討した。その結果,MISOシステムの共通極をもつモデルが巡回シフトM系列により同定可能となる条件を導き,そのパラメータ決定法も併せて導出した。 つぎに,実際に,頭部伝達関数のシステム同定実験をNHK方法技術研究所で実施し,頭部伝達関数をMISOシステムとみたときの入出力データを収集した。 得られた複数個の頭部伝達関数を用いて,立体音響を実現する方法について検討した。われわれは立体音響を実現する方法として,テレビ画面の外側にスピーカを複数個配置して,トランスオーラルシステムを構成する方法について検討している。このとき,カギとなるものは,多変数制御系を非干渉化するフィードバック制御の構成と,さまざまな不確かさに対処できるロバスト制御系の構成である。具体的には,つぎの3つの方法について検討している。(1)対角化法に基づいた方法,(2)インナーアウター分解に基づく方法,(3)線形行列不等式(Linear Matrix Inequality : LMI)を用いたロバスト制御,である。それぞれの方法の有効性については,数値シミュレーション実験によって確認したが,実験による性能評価は今後の課題である。実用化や,今後の発展性を考えた場合,(3)の方法が最も有望であり,今後さらに検討を進めていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多変数システム同定のための最適入力設計問題については,ほぼ理論的に解決できた。 トランスオーラル法を用いた立体音響の構成についても,順調に進んでいる。 一つだけ,多変数モデルの低次元化については,まだ新しい方法を提案するに至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
まず,MIMOシステムである音響システムのモデリングについてさらに検討を進める。具体的には,MISOシステム同定のための同定入力の選定についてのさらに理論的な検討を進める。音響システムに対してだけでなく,一般的なシステムに対しても適用可能な理論となることを目指す。システム同定により得られた音響システムのモデルは非常に複雑になるため,その簡単化の方法を検討する。このモデルの簡単化(model simplification)は,現在の制御分野において解決が望まれる最重要課題の一つである。 つぎに,トランスオーラル再生のためのMIMOロバストフィードバックシステムの設計法の理論検討をさらに進める。この検討を通して,制御理論のコミュニティで研究されているさまざまな研究成果の適用可能性を,実装化の観点から見極めたい。さらに,設計されたロバストフィードバック制御を実際のトランスオーラルシステムに実装して,NHK放送技術研究所の実験室において,性能評価を行う。また,申請者の研究室に簡易な実験環境を構築し,そこでも設計された制御系の性能評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の国外出張について変更が生じたことにより、予定していた旅費の支出がなかったために未使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度開催される国際会議に出席するための国外出張費として使用する。
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