研究課題/領域番号 |
15K06153
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
鈴木 聡 東京電機大学, 未来科学部, 准教授 (20328537)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 遠隔操縦 / 熟達 / 身体図式 / 空間知覚 / 近赤外光脳血流量計測 / 経皮的電気神経刺激 / 運転シミュレータ / テレイグジスタンスロボット |
研究実績の概要 |
遠隔操縦ビークルの操作熟達に重要な遠隔存在感と関係している身体図式(body schema BS:身体の延長感覚)に着目し、BS改変を誘発する経皮的電気神経刺激(TENS)を利用して、その遠隔存在感を向上させて操作支援する研究を実施した。 本初年度は、A1)BS改変知覚の調査・計測・同定と、B1)検証用TER(Telexistence Robot)の計測系構築に取り組んだ。特に前者については、脳機能計測による①BS伸展時の脳機能分析(棒差し実験)、②TENS刺激による空間認知調査(空間尺度実験)を行い、客観と主観の2つの側面から解析した。 実験①では、指差し(BS改変なし)と棒差し(BS伸展状態)の2つの条件で、スクリーン上の文字をなぞる作業中の被験者の脳活動を近赤外光脳血流量計測(NIRS)で計測・比較し、棒の使用に伴うBS伸展に特徴的な脳活動地図をSPM(Statistical Parametric Mapping)法で解析した。その際、従来SPMでは忌避していた体動アーチファクト下の血流量データに対しても有用なNIRS-SPM法を新たに構築し、本解析に適用した。その結果、ブロードマン7-40-21野の連続した帯状領域が有意に賦活し(t(15); p<.01~p<.001)、本BS伸展に特徴的な賦活パタンを特定した[雑誌論文投稿中]。さらにBS伸展時にTENS刺激を加えることで、側頭~後頭部の広い領域活性(p<.05)と、下頭頂小葉のBS変容強度に対する恒常的賦活(p<.05)が確認され[HSI16採択]、BS伸展の客観的検出法を獲得した。 実験②では、運転シミュレータを用いて仮想車体と障害物との主観的距離を被験者に問い、距離感覚誤差を統計分析した。映像種別(静止映像/能動的運転映像)、TENS刺激強度、空間位置関係(距離/角度)の複合条件を考慮して分析した結果、能動的運転時の左方向の場合にTENS刺激で距離感覚量の分散が変化し(F(21,21)=0.41, p<.05)[ICEE16採択]、TENS刺激が限定的ではあるが主観的距離感覚にも影響を及ぼすことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の実施計画とした研究項目A1「BS改変知覚の調査・計測・同定」に関しては、アーチファクトロバストなNIRS-SPM法を考案でき、またBS改変の関連脳部位・パターンも特定できたので、"BS改変知覚の調査・計測"については概ね予定通りであった。しかし"BS改変知覚の同定"については、諸条件の探索作業に時間を要し、最適条件の絞り込みに苦慮している。そのため被験者間の共通特性と個人特性とを分類し得るに十分な量の同質条件のデータ蓄積が十分行えておらず、今年度に目標としたTENS刺激に対する身体図式改変特性モデルの導出には至っていない。 一方の研究項目B1「検証用TERの計測系構築」については、TERに位置計測システム(レーザ測域センサ、QRコード位置計測センサの実装と、計測用計算機の搭載)、iOSによる遠隔操作プログラムの開発を完了し、検証機のハードウェア準備は概ね完了した。さらにTERの自己位置推定・周辺地図作成アルゴリズムを開発して、実機精度を検証しており[ICEE16採択]、次年度での実空間実験のための検証システムの準備は予定通り進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本申請研究の当初3年間での3つの研究主項目(A:TENS刺激によるBS改変特性の解明、B:遠隔存在感/身体感向上支援法、C:操作端末構築と現場有用性の確認)のうち、A系列については現在の研究進展状況を鑑みて一部計画の修正を行い、B,C系列については計画通り進める。 A系列の研究項目に関しては、前年度の棒差し実験とそのNIRS-SPM解析から、従来用いていた無知覚強度のTENS刺激ではBS変容効果が十分でなく、丁度可知差異125%のTENS刺激がBS伸展作業時の脳賦活を活性化することが判明したので、次年度では有知覚刺激によるBS変容強化学習の条件を探索する方針に変更し、加えて、BS変容とタスク困難度との関係解明を経てTENS刺激に対するBS改変モデルを同定し、これを操作支援に活用する方法を探究する。 B系列に関しては、TER検証機に撮影映像の配信/加工機能を追加実装して遠隔操縦実験システムを構築し、運転シミュレータによる仮想空間実験から、TER操作による実空間実験に移行する準備を進める。 C系列に関しては、遠隔操作アプリ、同アプリ用TENS発信デバイスを開発し、BS改変支援用のポータブル遠隔操作端末を試作して、次年度での運用実験試験を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
被験者実験での最適条件の絞り込み作業が難航し、当初見込んでいたデータ蓄積作業が予定期間内に完了せず、想定成果に関する国際会議発表(1件)を見送ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越額は、当初想定予算種目の旅費のまま次年度に加算し、以下の国際会議の旅費・参加費として使用する予定である。 ・HSI2016(イギリス:採択決定1件)、IECON2016(イタリア:投稿中1件)、ICEE2016(沖縄:採択決定2件)
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