酸塩基反応で硬化するマグネシアリン酸塩セメントは,従来のセメント系材料(一般的に,ポルトランドセメントを母材とする)と比べて低アルカリ性であり,高いアルカリ性領域で再溶解を起こす重金属類の固定能が期待される。本研究ではMgO-KH2PO4-H2O系セメント(以下,MK系と略称)とドロマイトを焼成して得られる半焼成ドロマイト(MgOとCaCO3の混合物)を用いたMgO/CaCO3-KH2PO4-H2O系セメント(以下,DK系と略称)の二種類について硬化反応を解明するとともに,Pbの固定化について検討した。なお、半焼成ドロマイト利用によるマグネシアリン酸塩セメントの提案は世界初である。 硬化MK系セメントは,主に未反応MgOと主水和生成物であるKMgPO4・6H2Oから構成され、DK系セメントは未反応のCaCO3とKMgPO4・6H2Oが多くを占めているものの,KH2PO4の比率が多いセメントではCaK3H(PO4)2の生成を確認した。これらの硬化体に環境庁告示46号に準拠した溶出試験を行うと,液相のpHは11.7程度になった。本研究のセメントは、より溶解度の低い水和物の生成によって従来材料(pH 12.5~13.5程度)よりも低アルカリ性になっていることが分かった。実際にPbを10~100ppm含有する水溶液を練り混ぜ水に用いてPbの固定化実験を行った。その結果,液固比(質量比)が0.5から10の範囲でPbの溶出量を土壌環境基準値(0.01ppm)以下に抑えることが可能であることが分かった。なお、 資源としてわが国はMgOを経済的に入手することは不可能であるが、ドロマイトは経済的に入手可能であり、わが国保有の資源の有効な利用が可能な機能性セメントを提案できた。
|