研究課題/領域番号 |
15K06192
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
佐伯 昌之 東京理科大学, 理工学部土木工学科, 准教授 (70385516)
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研究分担者 |
大谷 隆浩 名古屋大学, 情報科学研究科, 学振特別研究員(PD) (30726146) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 精密小型加振機 / 道路標識 / 振動計測 / 常時モニタリング |
研究実績の概要 |
本研究は,道路標識等の道路付属物の健全性評価手法を開発することを目的とするものである.H28年度は,1) 道路標識の損傷・加振実験,2) 有限要素法を用いた損傷逆解析,3) 実現場に放置し続けることが可能な加速度無線センサの開発と長期振動計測実験,を実施する計画であった.それぞれの項目について得られた成果を以下にまとめる. 1) 学内に設置した実験用の道路標識の振動を1日に1回180秒間だけ計測し,その固有振動数をモニタリングした.これにより,日常的にどの程度固有振動数の推定値が変化するかを定量的に示すことができた.また,損傷実験においては,頻度を高めて計測を行いつつ,道路標識根本の鋼管の肉厚を減少させた.この実験により,実現場とは条件は多少異なるものの,肉厚減少に伴う固有振動数の低下が確認できた. 2) また,道路標識を精密小型加振機で加振させ,その応答を計測することで道路標識のGreen関数を推定した.さらに,このGreen関数を説明する有限要素モデルを開発した.H27年度は一致率が低かったものの,本年度の成果により,2%弱の精度で観測データを説明できる数値モデルが得られた.H29年度はこのモデルを用いて損傷の逆解析を行う予定である. 3) 小さな太陽電池パネルをセンサケース内に接着した小型の加速度無線センサを開発し,道路標識の振動を計測している.1日に1回180秒のデータを100Hzで計測し,そのデータを無線でPCに送信する実験であるが,既に3か月以上に渡って電池交換なしで計測が行えている.今後もデータを取得し続ける予定であるが,小さな太陽電池パネルでも連続使用が可能な低消費電力センサの試作機としては十分な性能を保持していると言える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
損傷の定量評価に関する逆解析以外は,ほぼ申請書に記載した研究計画通りか,それ以上に進展している.主な点として,加速度無線センサの試作機は完成しており,道路標識の振動データの常時モニタリングを継続している.3か月以上に渡り順調に振動データが増えていることから,今後も予定通り,異常検知のためのデータが蓄積されると予想される.また,道路標識の損傷実験も行っており,健全時と損傷時のデータが蓄積されている.この様に,ハード部分や振動実験という部分は研究計画通りに順調に進んでいる.一方で,逆解析については,当初はH27年度中に有限要素モデルを完成させる予定であったが,実際には,精密小型加振機で計測されたGreen関数を精度よく説明する有限要素モデルの構築に苦戦していた.H28年度の研究により,精密小型加振機が故障していたこと,データ取得方法に問題があったことが判明し,計測方法を一から見直すことで,Green関数を再取得した.これにより,従来から構築していた有限要素モデルにより,Green関数を2%弱の精度で表現できることが明らかとなった.今後はモデルの精度を高めるとともに,遅れていた逆解析に関する研究を進めて行く.ただし,逆解析に必要なツールであるMCMC法などの手法は既にプログラム化しており,損傷個所の定量化の問題などにはすぐに取り組める状態にある.以上のことから,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
H29年度も,当初予定通りに研究を進めて行く.すなわち,以下の項目について研究する. 1) 常時微動の連続モニタリングの継続.道路標識の損傷に伴う振動異常の検知においては,健全時の振動特性の変化がどの程度かを定量化しておくことが重要である.温度や湿度,道路の含水状態の変化により,日常的にどの程度,固有振動数などの振動パラメータが変化するかを実際に計測する. 2) 構造物に実際に損傷を与え,損傷前後での振動応答の変化を観察する.この損傷実験は,上記の常時微動の連続モニタリングの最中に行い,損傷に伴う異常検知が実際に可能かどうかを確認する.既にH28年度の実験で1度行っているが,H29年度にも再現性を確認する.また,精密小型加振機を用いたGreen関数の計測と,そのデータを用いた損傷の定量化も試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度も当初の予定通り,道路標識の損傷実験を行った.計画では,損傷した道路標識は危険であることから,直ちに解体し,再度新しいものを設置する予定であった.しかしながら,損傷前後の振動データを長期間取得することで,比較的軽微な損傷に伴う固有振動数のわずかな変化を捉えることができないか,という実験を試みており,道路標識の建て替え作業を行っていない.これにより,まとまった額の未使用研究費が発生した.
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次年度使用額の使用計画 |
H29年度中に道路標識を1度建て替える予定であり,さらに年度末に再度損傷実験を行った後に,完全に撤去することを予定している.H28年度未使用分はそれに充てる計画である.
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