本研究は,高齢化する鋼橋梁の維持管理業務の省力化や効率化を進めるために,架橋地点の特徴や橋梁構造を踏まえて,腐食劣化部位を特定できるシステムを検討する.具体的には,空間解像度1㎞程度の大気腐食環境を予測し,その予測結果を用いて,構造物スケール(数m)程度で橋梁の鋼材表面への付着塩分量を推定するシステムを構築し,腐食劣化しやすい部位の特定することが本研究の目的である.付着塩分量推定システムの検証には,2つの異なるスケールでの野外計測を行った.まず,鋼材の大気腐食の主因である飛来塩分量は大気中の海塩粒子濃度をガーゼ等で捕捉することによって簡易計測可能である.本研究では,飛来塩分量及び海塩粒子濃度の詳細な計測を行い,WRF-Chemを用いた海塩粒子濃度の予測精度を検証する.一方,鋼橋梁での付着塩分量の妥当性検証のために,付着塩分計,鋼材の外観評点,橋梁の各部位近傍に設置したドライガーゼ法による飛来塩分量計測の3つを行った.そして,オープンソースの流体解析ソフトOpenFoamによる数値解析に基づいて,付着塩分量を推定し,その推定精度を検証した.最終年度である本年度は,昨年度までの研究結果を踏まえて,最終的な研究成果をとして取り纏めた. (1)WRF-Chemを用いた海塩粒子濃度の予測精度を検証: WRF-Chemによる海塩粒子の予測精度においては,観測結果の変動を概ね再現しているものの,過大評価となった.ただ,地上風速の再現性は十分であることから,物理スキームの更なる検討を進めることで,予測精度向上が見込めることがわかった. (2)OpenFoamを用いた橋梁の三次元モデルによる流体解析: OpenFoamを用いて,対象橋梁内部における塩分付着量の分布状況を推定した.その結果,数値実験で推定される付着塩分量が多い箇所では,腐食状況が悪く,外観評点が低いことが確認できた.
|