前年度までの研究結果から,(1)負圧および軸応力を複合的に受ける泥炭の非排水強度は,軸応力載荷速度が大きくなるほど応力経路上の応力点が破壊線に近づくため,必ずしも圧密の進行とともに増加しないこと,(2)せん断弾性係数もほぼ同様の傾向を示すこと,が明らかとなった。この中で,(1)は実務で用いられている圧密度にもとづく強度増加の推定式が実際の強度変化よりも過大評価する可能性を示唆している。 同時に,関連して実施した負圧のみを載荷した等方圧密試験の結果から,軸ひずみに比べ側方ひずみの発生量はかなり小さく,泥炭の変形が予想以上に著しい異方性を有することが確認された。このような変形の異方性は既存の構成モデルでは考慮されていないため,実験で得られたひずみとの間に大きな差異が生じることが明らかとなった。本研究では非排水強度を既存のモデルと比較する予定であったが,それ以前に,既存の構成モデルの適用性を吟味する必要があると判断し,まず,泥炭の変形の異方性について明らかにすることを優先することとした。 泥炭の変形の異方性は堆積した植物遺骸の配向に起因すると考えられるため,堆積面に対し,垂直,および水平に切出した供試体を用意し,大ひずみ域での変形を念頭に置いた圧密試験,微小ひずみ域での変形を念頭に置いた室内弾性波試験を実施して異方性を評価した。 その結果,微小ひずみ域ではせん断弾性係数で3倍程度の大きな差が認められた。また大ひずみにおいても類似の傾向が見られたが,圧密変形においては粘性の影響が無視できないほど大きいことがわかったため,粘性を評価するための基礎的な実験として三軸等方圧密試験によって泥炭の排水クリープ挙動を確認した。
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