研究課題/領域番号 |
15K06220
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研究機関 | 国立研究開発法人土木研究所 |
研究代表者 |
砂金 伸治 国立研究開発法人土木研究所, 土木研究所(つくば中央研究所), 研究員(移行) (10355878)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | トンネル / 覆工 / 地山 / 変状 / 外力 / 変形エネルギー / 措置 |
研究実績の概要 |
我が国では多数の地中構造物があり,例えば山岳道路トンネルでは約10,000本が存在しているが,これらすべてが健全な状態にあるわけではない.例えば膨張性地山にある場合は,トンネルにせん断ひび割れが発生し,表面からコンクリートがはく離する事例や,巨大な直下型地震の影響で鉄筋が露出したり,数は多くないが覆工コンクリートが落下する事例が報告されている.これらの事例を分析すると,前者に関しては当初は微細なひび割れが発生し,それが徐々に進行して変状が累積し,最終的にせん断ひび割れを生じて破壊を生じるもので,変状の進行が比較的緩慢,すなわち中~長期的に変状が生じると予想される.また,後者に関しては構造が大規模に衝撃的かつ急激に破壊,すなわち極短期~短期的に荷重が作用したと予想される. より安全性の高い地下構造物を構築するためには,上述の荷重の作用に関するメカニズムを解明し,地山と構造を同一の系で考えることに加え,時間要素を考慮した外力作用による影響が存在することを把握する必要がある.平成28年度は,トンネルで観測された変形や崩壊事例をもとに,トンネルに作用していると想定される外力の傾向を把握した.また,それら外力の傾向の差異によるトンネルの破壊に至るメカニズムを検討するために,トンネル覆工を模擬した模型を用いた実験結果を用い,構造の特性と時間要素の影響を考慮した外力を作用させた場合の崩壊状況を把握するとともに,その結果に基づき,変形解放エネルギーと累積変状エネルギーを評価し,その変化の傾向を明らかにした.さらに,覆工に対して補強部材を用いた場合,トンネルの崩壊が抑制出来る可能性があることを実験結果から導出するとともに,トンネルの背面に弱部がある場合は崩壊に影響を及ぼすことを数値解析により明らかにし,この場合も最大荷重と最大変位に加え,エネルギーの値にも影響がある可能性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,地山の変形やトンネルの崩壊データの分析として,様々なトンネルの変形や崩壊に関する事例をもとに,作用していると想定される外力を時間要素の観点から分析を行っている.また,地山に関する変形解放エネルギーに関して,地山の変形等の分析結果をもとに得られた数値に基づき,エネルギーの試算および考え方の整理を試みている.さらに,時間要素を考慮した外力作用による地中構造物に関する模型実験として,2次元実験土槽を使用し,作成したトンネル模型に対して,時間要素の影響を考慮した外力を作用させた場合の構造の変形,崩壊の状況,および模型地山の変形について検討し,その結果を用いて変形解放エネルギー等の比較を行っている.特に平成28年度は,実際のトンネルで観測されたデータをもとに,崩壊のメカニズムおよび作用する外力の傾向を把握できたことに加え,覆工を模擬した実験結果をもとに,エネルギーの評価や崩壊の抑制の可能性との関連性を検討できたものと考えており,本課題の進捗状況としては順調に進展していると評価している. また,トンネルの背面に弱部がある場合,崩壊に影響を及ぼすことを数値解析により明らかにし,この場合も最大荷重と最大変位のみならず,エネルギーの値にも影響がある可能性を示すことについて確認できたことから,概ね順調に進展したと評価している.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,地山の変形や地中構造物の崩壊データの分析として,近年発生した地震被害のデータに基づく分析を行い,地中構造物に作用していると想定される外力を時間要素の観点から分析を行うことを想定している. また,時間要素を考慮した外力作用による地中構造物に関する模型実験として,平成27年度に実施した2次元実験土槽を使用し,作成したトンネル模型に対して,載荷の繰り返し回数の影響を加味した場合の模型実験の実施を試みることを想定している.また,併せて実施した変形を止める構造に関して,「力をいなす構造」と「さらに変形を抑止する」トンネル構造の両者に対しても実験の実施の可能性を摸索し,挙動のメカニズムや損傷の累積の状態を実験的に明らかにすることを想定している. さらに,時間要素を考慮した外力作用によるトンネル構造に関する数値解析として,種々の数値解析手法による検証を実施し,解析的に時間要素を考慮した作用外力を用いた場合において,地中構造に生じる変状や変形性能の差異について検討するとともに,さらに構造および地山に変状が累積する状態をもとに,地盤の変形解放エネルギー,および地中構造物の崩壊ポテンシャルの定義および計算を行うことを想定している.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は,実績に基づくデータの分析および数値解析を主体にさまざまな崩壊のメカニズムを把握することができたが,実験の実施にあたってはデータの分析を踏まえて,平成27年度に実施したケースを踏まえた検討が必要であることと,平成28年度の費用のみではその効率的な実験の実施が不可能と判断した.
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は,繰り越したこれまでの費用をもとに,平成27年度に実施した模型実験の継続として,載荷の繰り返し回数の影響を加味した場合の模型実験や,平成28年度に実施した数値解析結果および支保の剛性の影響を考慮した実験の実施の可能性を摸索し,挙動のメカニズムや損傷の累積の状態を実験的に明らかにし,研究のとりまとめを行うことにした.
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