研究課題/領域番号 |
15K06228
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平林 由希子 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60377588)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 氷河 / 地球温暖化 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、まず、過去数十年(1949-2003)を対象に、全球氷河モデルによる過去氷河復元データの作成と、複数の気候モデル(GCM)を用いた氷河気候実験を実施した。GCM実験は、過去の全ての外力を考慮して過去再現を再現したALL実験、温室効果ガスなど人為的影響のみを考慮したGHG実験、太陽活動や火山噴火などの外力のみを考慮したNAT実験の3種類の実験を実施した。また、気候の内部変動に伴う氷河の変化を把握するため、外部からの外力を何も考慮しない気候の内部変動のみを計算するCTL実験を8800年分実施した。次に、長期観測が存在する5地点の氷河と、過去氷河復元データが適切に過去の観測データに近い質量収支を計算することに成功している世界の85地点の氷河において、それぞれの実験における氷河質量の変動傾向を解析した。その結果、観測ならびに復元された氷河の質量のいずれにおいても過去に氷河質量が減少傾向にあること、特にその減少傾向は1990年以降に加速していることが見出された。これらの結果は、過去の外力を全て考慮した気候再現実験であるALL実験においても同様の傾向であることがわかり、GCMが過去の気候を適切に再現できていること、GCMの気象外力を入力した全球氷河モデルが、過去の氷河質量を適切に再現できることが確認された。気候に対する人為的影響のみを考慮したGHG実験においても、過去の氷河質量の減少傾向は見られたのに対し、自然影響のみを考慮したNAT実験では、過去の氷河質量はむしろ増加傾向であり、人為的な気候変化の影響が過去の氷河質量の減少に寄与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全球氷河モデルを用いた過去数十年の氷河質量の再現に成功し、長期観測データと併せて過去の氷河質量変化の解析を行った。また、異なる外力を適用したGCM実験による氷河質量の過去気候実験と気候の内部変動実験による氷河内部変動実験を全て完了し、過去の氷河質量の検出と原因特定(Detection and Attribution)を実施する準備が整った。また、氷河の観測データの収集と整備を行った。具体的には、20世紀後半の氷河質量の直接観測に加えて、氷河の直接観測を補完するための、氷河の痕跡データ(モレーンや過去の測量・絵画などから作成する氷河の前進・後退の記録)をヨーロッパを中心に入手した。これらの氷河質量のデータは、小氷期などの過去の気候が現在と異なる状況下での氷河モデルの挙動解析ならびに氷河質量の長期変化傾向の解析に用いる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に準備が完了した、20世紀の氷河質量観測、氷河復元データ、氷河質量の気候実験データを用いて、氷河質量における過去の気候変化の検出と原因特定を行う。具体的には、気温や降水量などの気象外力において適用されている最適指紋法(optimal fingerprinting method)を、前述の氷河質量データに適用することで、観測された氷河質量変化に対する人為的影響、自然外力の影響それぞれの寄与と、気候の内部変動の幅を定量化することを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果発表費(論文印刷費)に予定していた予算であるが、年度内に論文が受理されなかったため執行できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度の成果をまとめた論文は投稿中であり、年度内の受理が見込まれることから、予定通り研究成果発表費(論文印刷費)として執行する予定である。
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