研究課題/領域番号 |
15K06229
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
楳田 真也 金沢大学, 環境デザイン学系, 准教授 (30313688)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 海浜変形 / 汀線 / 砂浜 / 季節変化 / 波浪 / データ解析 / 数値解析 |
研究実績の概要 |
海岸における砂浜の侵食や高波・高潮氾濫などによる災害は、国内外で古くから続く問題である。その抜本的な対策を見出すには、長期・広域的な視点で現象を捉えること、川を経て海へ供給される土砂の動きやそれに左右される河川・海岸地形の変動特性をよく理解することが必要である。 そのため本研究では、冬季は頻繁に高波浪に曝され、夏季は穏やかな波浪になる日本海に面した砂浜海岸と河川流域を対象に、まず、季節的・年々的な地形変化と波浪や流れなどの自然外力の変動との関係を、様々な観測データに基づいて調べた。その結果、主に砂浜の汀線の変化について次のようなことが分かった。 主な土砂供給源とみられる河川から30km以上離れた流砂系の北端部に位置する海岸では、河口周辺の海岸に比べて汀線が後退(砂浜が岸沖方向に狭くなる)し始めた時期が遅く、変化は緩やかである。汀線の位置は季節的な変化が大きいものの、冬季の高波浪によって後退した汀線は、夏季には前進して、元の位置近くまで通常回復する。冬季の汀線変化はその期間の波高と関係が強い。例年に比べて冬の波が高いと、冬季の汀線の後退幅が大きく、波が低いと前進するシーズンもある。夏季の汀線変化と波高の関係は冬季のように単純でなく、夏季における汀線の回復過程は複雑である。対象海岸で平均的な汀線位置が近年著しく後退したのは、夏季における通常の汀線回復がなかったことに起因している。 以上より、海岸線の維持や回復のためには、従来あまり注目されていなかった夏季の河川・海岸における土砂動態と地形変化の実態を解明することがポイントとなる。そのために役立つ波浪・流れ・砂の移動と河川・海岸の地形変化を解析できる国際的な評価の高いモデルを幾つか比較・検討し、対象海岸の現象究明に適したモデルを選定し、数値解析により初期的な検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の中で主要な柱となる、対象海岸・河川の広域的な地形変化の理解を深めるため、風、波浪、潮位と海岸・河口地形などのデータを様々な情報源から収集し、整理・分析を行った。その結果から、土砂供給源となる河川付近と離れた領域での自然的・人為的な要因による海岸・河川地形の応答の違いなどを明らかにした。さらに、汀線変動については、拡散型の方程式と観測データに基づいた逆解析手法を適用し、季節的な汀線変動の基本特性を明確に捉えるとともに、逆解析手法の応用による汀線予測の可能性について初期的な検討を行った。これらの研究結果の一部を、イギリスの第12回若手海岸科学者・技術者会議(YCSEC2016)で発表し、発表賞を受賞するなどの高評価を得た。 もう一つの柱になる、海浜地形変動の数値解析モデルを用いた広域土砂動態の理解に向けて、プロセスベースのオープンソースモデルを幾つかテストした。各モデルの適用性を把握するとともに解析技術に習熟した。また、対象海岸での時化や洪水による河口周辺域の短期的な地形変化、および夏季の波浪による季節的な土砂移動と汀線の回復過程などの現象解明に役立つ数値解析を行うため、風、波浪、潮位や海底地形などのデータ処理やテスト計算などの準備も着実に進めた。
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今後の研究の推進方策 |
広域流砂系の長期的・短期的な海浜・河川地形の応答特性の全容を解明するために、既存の観測に基づくデータ解析、プロセスベースのモデルを用いた数値解析、および河川から海岸へ流出する土砂動態を把握するために重要な観測を、現象の時・空間的なスケールに応じて、適切な方法を組み合わせて行う。H28年度は、川と海の境界になる河口周辺域における地形変化と土砂収支に注目して、河川と海岸の長期的な地形変化と自然外力や人的活動の影響との関係、および洪水と波浪による短期的な河口地形の応答特性を究明する。また、時化による海岸の汀線・断面の短期的な変化特性、季節的変動や夏季の汀線回復のメカニズムを究明するためのデータ解析と数値解析を進める。得られた知見を、観測データと数式モデルに基づいた逆解析手法に反映して、対象海岸の漂砂移動特性の究明および汀線の変動範囲の予測精度の向上を試みる。並行して、河口域での浮遊砂のモニタリングのため、計測機器のキャリブレーションや試験計測などの準備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた物品が見積時に比べて安くなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
当初計画よりも多くのデータ解析作業を進めるための謝金に利用する。
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備考 |
2015年4月から2016年3月までの約1年間、海岸地形学の研究に精通したSwansea大学工学部の研究グループと、本研究計画に関連する海浜変形解析に関して共同で研究を行った。少なくとも本研究計画の期間は継続する予定。
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