河川・海岸域における土砂動態と地形変化の総合的理解をさらに深めるため,(1)河川・海岸域の地形の長期的変化特性と影響外力の推定に関する研究,および(2)砂州海岸における波浪・長周期波の伝播・遡上と汀線変化の関係性に関する研究を行った. (1)広域流砂系内の河川・海岸の管理者による定期測量データ等に基づいて,過去50-60年に渡る河床縦断・海岸岸沖断面の形状や土砂体積の変動実態を調査・分析した.手取川の河床の縦断形状は,主に人為的要因(河床掘削,砂利採取等)と地勢的条件により,河口付近で緩勾配化,中流部で一様な河床低下,上流部で急勾配化した.河床材料の粒度分布も経年変化する傾向を示し,河川から海岸への流出土砂の量的・質的変化が推察された.海岸の土砂体積は沿岸・岸沖の各区域に分けて,外力(波浪,河川流量等)変動との相関関係を分析した.その結果,波エネルギーの沿岸・岸沖成分および洪水流量等の変動性の影響を受ける岸沖・沿岸領域が異なることが分かった.外力要因が卓越する1990年代以降の石川海岸の土砂動態特性の解明に有用な知見が得られた. (2)広域流砂系の末端部に位置する河口から離れた遠浅の砂州海岸を対象に,従来研究や前年度の研究結果で示唆された沿岸砂州と汀線位置の連動性に着目して,海浜への波浪と長周期波の伝播・遡上と海浜地形の関係を数値解析によって調べた.汀線が前進傾向にある夏季の平均波高程度の堆積性波浪に対しては,当該海岸の沿岸砂州は砕波減衰を引き起こさない.砂州配置により堆積性波浪の遡上を促進し,汀線の沖への前進に寄与する可能性があることが分かった.一方,冬季平均波高程度の侵食性波浪に対しては,沿岸砂州は遡上高を2割前後低減でき,汀線の後退を抑制する働きがある.また,本海岸の砂州配置の周期的変動は汀線を平衡位置近傍で変動させて,汀線位置を安定化する作用があると推察された.
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