研究課題/領域番号 |
15K06238
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
浅野 敏之 鹿児島大学, 理工学域工学系, 教授 (40111918)
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研究分担者 |
長山 昭夫 鹿児島大学, 理工学域工学系, 助教 (40621438)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | エッジ波 / 津波伝搬 / 分散関係 / 振動モード / 海岸防災 / 模型実験 / 数値解析 |
研究実績の概要 |
陸棚に捕捉され海岸に沿って進行するエッジ波は、津波を遠方まで伝搬させる導波作用と、水面変動を長時間継続させる作用があり、津波被害を大きくする可能性のある防災上の重要課題である。エッジ波の研究は古くからあるが、数学的導出を主眼とするものがほとんどである。実際の海岸では、陸棚上の岸沖長周期波や湾水振動など同じ周波数帯の長周期波変動と混在することや、海底地形・沿岸地形による変形・反射・減衰などにより、エッジ波を抽出すること自体が容易ではなく、その特性については現在も十分に解明されていない。 本研究は、陸棚上を伝搬する津波が途中の地形障壁によってどのような反射や減衰等の変形を受けるかを解明しようとしたものである。本研究は、模型実験と数値解析の2つの方法で構成される。 実験は、長さ682cm、幅164cm、深さ24cmの木製平面水槽を新規に製作し、片側の長辺に陸棚模型を配置すると共に、陸棚端に置いたピストン式造波装置によりエッジ波の形成を試みた。波高計アレイにより得られた水面変動の時空間特性から、陸棚上を進行するエッジ波のモード、分散関係、岸沖方向・沿岸方向の波高分布等が、理論で示される特性を持つことが確認された。 数値解析においては、横断面にステップ状陸棚地形を仮定し、平面的には海岸線を半径156.8kmの円弧とし幅12.8kmの同心円状陸棚を持つモデル海浜を設定した。その地形に楕円形の波源を持つ津波が入射するときの水面変動計算を実施した。得られた結果から陸棚上に捕捉されるエッジ波を抽出し、分散関係や変動モードなどの特性の検討、ならびに岬模型を置いた時のエッジ波の反射や減衰などの特性を考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、既往の研究ではほとんど議論されていない地形障壁によるエッジ波の変形を実験と数値計算の両面から明らかにしようとするものである。 実験では、波高計アレイを沿岸方向に配置して取得した水位変動時系列から、エッジ波の波速を読み取り、エッジ波周期、陸棚上水深、陸棚幅との相互関係である分散関係を調べたところ、長波近似が可能な領域で理論値と一致することが確認できた。陸棚上に岬を模したブロックを設置し、同様に生起するエッジ波の分散関係を調べたところ、部分重複波の形成によりエッジ波の見かけの進行速度が減少することがわかった。またエッジ波による岸沖方向の波高分布については、基本的には理論と合致するが、岬地形による反射を含めた実験では、現時点ではやや一貫しない結果となっており、今後の課題として残されている。 数値解析では、ゆったりした曲率を持つ同心円状海岸線を持つモデル海浜を設定し、津波波源を瞬間的に変位させて海浜に入射させた。モデル海浜の陸棚上の波峰の伝搬状況からエッジ波の再現が認められた。さらに波速や岸沖・沿岸方向の波高分布を解析し、陸棚内での振動モードや分散関係が理論と整合することを確認した。岬を模した地形を陸棚上に設置したところ、それによる反射と岸沖・沿岸方向の波高分布の変化を議論することができた。 以上のように、当初の本研究の目的に対して実験、数値解析ともに着実に成果を挙げていると考える。実験では単純な長方形モデル海浜を対象とする一方、数値解析では同心円状海浜を対象としており、現状では両者の解析が共通し融合したものと必ずしもなっていないが、こうした点を除けば本研究は概ね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
小型平面水槽を用いた実験的検討は、測定のハンドリングの良さと小型造波装置の可搬性を生かして、平成29年度も引き続き、この理想地形に対するエッジ波の時空間特性を明らかにしていく。前年度までにエッジ波の理論が示す特性を本実験が再現することが確認されているが、29年度はエッジ波の特性の検討として、時空間水位変動をスペクトル解析やコーヒーレンス・フェイズ解析などを通じてさらに詳細に検討する。また陸棚模型の途中に岬模型を置くことによる、進行波性エッジ波から重複波性エッジ波への遷移条件などもより詳細に検討したい。 同様に数値解析による検討においても、時空間水位変動からスペクトル解析やコーヒーレンス・フェイズ解析を通じて、エッジ波の特性の変化をより詳細に議論する。また,実験における模型海浜・陸棚に対して数値解析で水位変動を再現し、エッジ波成分の特性を議論することにより、実験で得られた結果の信頼性を数値解析から補強する考察を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
小型平面水槽の製作は、研究協力者である本学理工学研究科に所属する種田技術職員と井﨑技術職員がほぼ手作りで行ったため、製作経費が当初予定より少なくなり、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は最終年度であり、実験に必要な消耗品や実験・データ解析補助のための謝金が多くなることが予想される。また成果を国内学会や国際会議で発表するため旅費が多く必要になる。次年度使用額はこうした費用に充てる。
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