当該研究は、地球温暖化の影響で海氷の移動が活発化する氷海域の海岸・海洋構造物の材料損耗・劣化に関して精度の高い評価を行い、対策に繋げることを目的としている。このためa海氷の影響を考慮に入れた未解明である“腐食摩耗“現象の実験による把握、b海氷移動による凝着摩耗やアブレッシブ摩耗現象の既存の実験データの検証・追加実験ならびに理論およびシミュレーション手法の構築、c実海域の氷象(形状や物性)を考慮に入れた氷の衝突による接触圧力とランダムな局部氷圧力について検討してきた。また、現地暴露試験も数年間にわたり実施した。 最終年度では、これまでに得られた知見を基に、海氷移動に伴う鋼材の摩耗機構現象(凝着、アブレッシブ、腐食摩耗)を整理し、実験結果に基づく劣化対策について検討した.そして、結氷海域に建設される鋼製の海岸・海洋構造物の設計段階において、腐食しろとして予め付加すべき肉厚“犠牲鋼板”の具体的な計算法を示すことで、これらの構造物の新しい耐氷設計法を提案した.また、この“犠牲鋼板”による方法は、国内のアセットマネージメントでは空白部分である氷海域の海岸・海洋構造物の劣化予測と合理的で安価な対策技術を新たに示すことになり、LCCに配慮した設計にも寄与する。 さらに、当該研究の成果は、資源の豊富な北極海域などの極地、亜極地の構造物の設計にも十分に適用可能であり、氷工学の分野では先端的な北米、北欧さらにロシアといった国外の研究の現状からみても、国際的に先んじた成果の情報発信になる点でも重要な意義があると考えている。
|