研究課題/領域番号 |
15K06240
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
鈴木 善晴 法政大学, デザイン工学部, 准教授 (80344901)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 集中豪雨 / 気象制御 / シーディング / メソ気象モデル / 化学輸送モデル / 地球温暖化 |
研究実績の概要 |
本研究は,防災・減災対策としての人為的豪雨抑制の早期実用化を目指して,メソ気象モデルWRFや化学輸送モデルWRF-Chemを用いた数値実験およびフィールド散布実験を実施し,より効果的なシーディングの実施条件の解明に取り組むとともに,意図した効果が得られない場合のリスク評価を行うことで有効性および信頼性の高い豪雨抑制手法の確立を目指すものである. 初年度の平成27年度は,上記のモデルを使用してゴム気球等による物質散布(離散的・動的シーディング)をモデル内でより詳細に表現するため,計算フローの改良や計算要素の追加等により従来の数値実験をさらに高度化したうえで,線状対流系を含む様々な豪雨事例に対して感度分析および降水抑制・降水促進メカニズムの解析を行った. その結果,WRFを用いた強冷法シーディングでは,低い操作倍率による離散的・動的シーディングにおいても10%以上の抑制効果が得られたことから,限られたシーディング散布量および領域を限定した比較的小規模なシーディングにおいても一定の豪雨抑制効果が期待できることが示された.また,WRF-Chemを用いた人工核法シーディングにおいても,エアロゾルが降水過程に影響を与え降水量が大きく減少するケースが確認された. さらに,両手法の抑制メカニズムの違いを比較した結果,シーディングにより直接的に生成される降水粒子の種類は異なるものの,それら降水粒子の落下が積雲内の鉛直風速を弱めて,高高度における霰の成長を抑制することが両手法における共通のメカニズムであることが確認された. 次年度は,より多くの事例および条件でシミュレーションを実施し,最適なシーディング実施条件の検討や豪雨促進リスクの統計的な評価を行うとともに,シーディングによる降水抑制効果を検証するため,ゴム気球・ビデオゾンデ・可搬型降雨レーダを用いたフィールド散布実験を実施する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の平成27年度は,下記の課題①~④に取り組み,いずれも一定の成果を得ることができたことから,全体的な進捗状況としてはおおむね順調に進展している.ただし,当初の計画における実施順序を変更し,課題②の化学輸送モデルWRF-Chemを用いた数値実験の実施を優先させたため,初年度に試行実験の実施を予定していた「シーディングによる降水抑制効果を検証するためのフィールド散布実験」については実施準備が遅れており,次年度の課題として持ち越しとなっている. 課題①「メソ気象モデルを用いた離散的・動的シーディングに関する感度分析」:低い操作倍率による離散的・動的シーディングにおいても10%以上の抑制効果が得られたことから,限られたシーディング散布量および領域を限定した比較的小規模なシーディングにおいても一定の豪雨抑制効果が期待できることが示された. 課題②「化学輸送モデルを用いた人工核法シーディングに関する感度分析」:散布物質の量や種類等を変化させながら降水過程に与える影響について感度分析を行ったところ,人工核法シーディングにおいても一定の抑制効果が得られることが確認され,従来の強冷法シーディングとの抑制メカニズムの相違点を示すことができた. 課題③「積雲発達期・発生初期のシーディング実施に伴う豪雨促進リスクの定量化」:シーディングによる豪雨促進リスクの大小を定性的・定量的に評価するため,複数の豪雨事例に対して数値実験を行ったところ,全体としては促進される可能性よりも抑制される可能性の方が大きいという結果が示された. 課題④「積雲発生初期の大気場情報に基づいた局地的豪雨の発達可能性の解析」:積乱雲のタマゴの発達事例,非発達事例について自己組織化マップを使用したクラスター解析を行い,それらの発達可能性について検討した.積乱雲のタマゴの発達との関連が高いいくつかの指標を示すことができた.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,今年度からの継続課題(上記課題①~④)に取り組むことで結果の精緻化および高度化を図るとともに,次年度への持ち越しとなっている「シーディングによる降水抑制効果を検証するためのフィールド散布実験(課題⑤)」の準備・実施に取り組む予定である.特に次年度は,まず課題①~③において,より多くの事例および条件で数値シミュレーションを実施し,最適なシーディング実施条件(どのタイミングで,どの領域に,どの程度の規模で実施すればよいかなど)に関する検討を行うとともに,そこで得られた基礎的な知見を基に課題⑤の準備・実施を行う. 課題③に関しては,シーディングに伴う降水増減の確率的評価を行うことで,意図した効果が得られない場合の豪雨促進リスクを定量的に算出する.互いに少しずつ値が異なる初期値群をモデルに与えて実行した複数のシミュレーションに基づいて結果の信頼性に関する評価指標を算出することができるアンサンブル手法を新たに導入し,意図に反して豪雨が強化されるリスクの定量化を試みる. 課題④に関しては,自己組織化マップに入力する偏波レーダ情報,大気場指標,降水粒子の分布割合,ドップラー渦度のデータの組み合わせを検討することで,積乱雲のタマゴの発達・非発達に関する判別精度を向上し,シーディングを実施するタイミングや領域の判断を行う際に必要となるリアルタイムの予測情報の提供を目指す. 課題⑤に関しては,複数のゴム気球を用いた物質散布実験を試行的に実施する.ヨウ化銀やドライアイス,人工花粉などを散布するための装置開発を行うとともに,気球にビデオゾンデを取り付けて散布前後における上空の降水粒子の変化を直接観測するとともに,可搬型降雨レーダを用いた気球の追尾観測を実施する.平成28年度に実施する試行実験において最適な散布方法や散布量を見極めたうえで,次年度に本番実験を実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では,シーディングによる降水抑制効果を検証するため,ゴム気球・ビデオゾンデ・可搬型降雨レーダを用いたフィールド散布実験を実施する予定であるが,初年度の平成27年度は化学輸送モデルWRF-Chemを用いた数値実験の実施を優先させたため,フィールド散布実験の実施準備が遅れており,その準備(試行実験)に使用することを想定していた平成27年度の研究費の一部を次年度に繰り越すこととした.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に繰り越した研究費は,フィールド散布実験の実施に必要な消耗品(ゴム気球,ヘリウムガス,ビデオゾンデ等)の購入や人員を実施拠点へ派遣するための経費(旅費および謝金)として使用する予定である.また,散布実験で使用予定のビデオゾンデの受信機等については,他大学(京都大学・神戸大学・山口大学)が所有するものを無償で借り受ける予定となっているため,それらの機器の輸送・運搬費用としても使用する.
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