研究課題/領域番号 |
15K06251
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山田 忠史 京都大学, 経営管理大学院, 准教授 (80268317)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | サプライチェーン / 交通ネットワーク / 頑健性 / 不確実性 / 最適化 |
研究実績の概要 |
研究実施計画二年目に相当する本年度は、サプライチェーンネットワーク(supply chain network: SCN)上の各主体の利潤・余剰や商品の供給・消費量の変化を考慮して、サプライチェーンや物流の観点から見た交通ネットワークの頑健性評価について考究した。その中で、「原材料業者、製造業者、卸売業者、小売業者、物流業者、消費市場」の6主体からなるモデルの精緻化、および、不確実性下におけるサプライチェーンの最適設計モデルの構築に努めた。都市内配送に限定したモデルについても、物流業者数の一般化へとモデルを拡張するとともに、共同配送事業者が存在する場合についても、ネットワーク均衡モデルの枠組みでモデル化を行った。 また、計算に必要となるインプットデータを精緻化するために、前年度に引き続き、国内外の企業に対してヒアリング調査を行うとともに、サプライチェーンや交通について調査・研究した文献を精査した。モデル化においては、既存のネットワークモデリングの研究成果だけでなく、研究代表者が科学研究費でこれまでに取り組んできた研究(基盤研究(C)平成21~23年度、および、平成24~26年度)から得られた成果も援用した。 頑健性については、SCN上の総余剰(製造業者、卸売業者、小売業者、物流業者の利潤と、消費市場における消費者余剰の総和)に注目して、分析を進めた。SCN上に存在する不確実性に注目し、確率変数を導入しながら、既存のサプライチェーンネットワーク均衡モデルに基づいて定式化を行い、解法に期待残差最小化法を用いることにより、「総余剰の観点から不確実性に対して最も頑健な」状態を算定した。基礎的な数値計算の結果から、不確実性が大きくなるほど、取引量(生産量)を抑制する方が、頑健性の観点からは有利であることなどを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初の研究計画において、本年度は、次の4項目に着手することとしていた。(1) SCN上の各主体の利潤・余剰や商品の供給・消費量の変化を考慮して、サプライチェーンや物流の観点から見た交通ネットワークの頑健性や脆弱性を検討する。(2) 計算に必要となるインプットデータを精緻化するために、前年度に引き続き、国内外の企業に対してヒアリング調査を行うとともに、サプライチェーンや交通について調査・研究した文献、および、平常時や災害時の既存の交通・物流・商業調査の結果を精査する。(3) 都市内配送に限定したモデルの拡張を図り、平常時の交通ネットワークのパフォーマンス変動に対する配送の頑健性評価を行う。 「研究実績の概要」で述べたように、本年度において、上記(1)~(3)のいずれも、当初の計画通りに進行している。上記(1)については、本年度の脆弱性評価が弱いが、昨年度において、計画以上に分析が進んでおり、本年度分を補完できている。さらに、不確実性下におけるサプライチェーンの最適設計モデルの構築については、当初の研究計画以上の成果と考えられる。上記(3)については、配送の頑健性を精緻に評価するまでには至っていないが、モデルの拡張は順調に遂行できている。 以上より、研究計画との整合性、前年度における補完、計画時以上に発展した項目を考慮すれば、本研究は、順調に進展しているものと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究実施計画最終年に相当する平成29年度は、過去2年間で開発してきたモデルの精緻化を図るとともに、交通ネットワークの頑健性や脆弱性評価のパフォーマンスについて検証する。対象とするモデルは、サプライチェーンネットワーク均衡モデル、サプライチェーンと交通のスーパーネットワーク均衡モデル、あるいは、都市内配送に限定したモデルである。モデルの精緻化においては、前年度の調査結果や、数理計画、ネットワーク信頼性、サプライチェーンに関する既往研究を参照する。 実際のSCNや交通ネットワークでの実現値と、これらのモデルから得られた推定値が、よりいっそう整合するためには、あるいは、頑健性や脆弱性の現実的な評価のためには、モデルへのインプットデータや、比較対象となる実現値データの精緻化が必要である。そのために、既存の調査結果や関連文献の精査、ならびに、国内外の企業や関連研究者に対するヒアリング調査を継続的に実施する。 平成29年度には、SCNや交通ネットワーク上の状態の動的遷移を考慮したモデルの拡張も試みる。動的な状態遷移とは、例えば、「平常→被災→復旧→復興」という遷移である。また、前年度までに構築・拡張したデータやモデルも併せて用いながら、脆弱性や頑健性に関する指標と、既存指標との比較も試みる。さらに、交通ネットワークの脆弱性解消や頑健性向上に寄与する施策、例えば、交通リンクの新設や改良などの交通施策、および、生産や流通を誘導・分散する物流施策についても考究する。 なお、平成29年度は研究実施計画最終年であることから、モデル開発や数値計算などの、これまでの研究成果について、国内外の関連学会や関連ジャーナルなどで精力的に発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計算モデルの拡張・開発、また、モデルを用いた数値計算の実行において、既往の研究論文や関連図書からの知識獲得が必要であるが、関連図書の購入に頼らずに、できる限り、学内利用可能な電子ジャーナルやWeb上で無料公開されている資料の利用に努めた。その結果、図書購入費が節約されることになり、約二万円の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度は、研究成果を発表し、投稿する年度でもある。研究成果の投稿料は、投稿するジャーナルによっては、ページ数が多くなると投稿料が増大する。次年度使用額は、成果発表旅費や投稿料に、充当する予定である。
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