研究課題/領域番号 |
15K06258
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
金子 雄一郎 日本大学, 理工学部, 教授 (40434112)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | OD接続性 / 脆弱性 / 都市鉄道 / 大規模地震 |
研究実績の概要 |
平成28年度は,研究代表者が過去に開発した都市鉄道ネットワークにおけるOD間の接続性を評価するシステムに,1)震災時の交通行動特性の反映,2)各リンクへの容量制約の付加,3)複数の運転再開シナリオの設定の3つの改良を施し,地域別の目的地への到達状況を比較検討した.具体的に1)については,震災時には多くの利用者が迂回による所要時間の増加を許容する傾向があることを踏まえ,経路選択肢集合を最大16経路まで設定可能とした.2)については,リンクごとに輸送力に混雑率の許容値を乗じた容量を設定した上で,分割配分法を用いて段階的に経路配分を行うことで,容量超過が生じないようにした.3)については,震災時における運転再開線区に関する検討にあたり,各鉄道事業者の代表的な1線区(JRは7線区)を優先して再開するシナリオ(シナリオ1)と,東京駅から30 km圏内の主要線区を再開するシナリオ(シナリオ2)を設定した.このうちシナリオ1は,鉄道事業者における人員や資機材等の制約,ネットワークにおける代替性を考慮したものであり,シナリオ2は,東京区部とその周辺の東京多摩部,横浜市,埼玉南部,千葉北西部との間のトリップ数がきわめて多いという流動特性を踏まえたものである. 以上の結果,シナリオ間で平均帰宅可能率はほぼ同水準であるものの,帰宅可能状況は大きく異なり,特に東京圏の郊外部地域(神奈川県,埼玉県,千葉県の一部地域)において両者の差が60%以上と顕著であることが示された.このことは,運転再開線区の検討にあたり,都心ターミナルと郊外地域を結ぶ線区を含めることの重要性を示唆しているものと考えられる. また,平成28年度においては,前年度に進めた複数リンクの途絶を考慮した都市鉄道ネットワークの脆弱性評価手法の開発の成果をとりまとめ,土木学会の年次学術講演会及び土木計画学研究発表会において論文発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度については,予定していた都市鉄道ネットワークのOD間接続性評価システムについて,「研究実績の概要」に記載したとおり,1)震災時の交通行動特性の反映,2)各リンクへの容量制約の付加,3)複数の運転再開シナリオの設定の3つの改良を行い,地域間の帰宅可能状況を比較検討した.その結果,震災時における運転再開線区の検討に資する有用性の高いシステムを開発するとともに,再開線区の選定に際して重要となる知見を得ることができた. また,前年度に進めた複数リンクの途絶を考慮した都市鉄道ネットワークの脆弱性評価に関する研究成果について,関連する学会(土木学会の年次学術講演会及び土木計画学研究発表会)において論文発表を行なった. 以上より,おおむね順調に進展しているものと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度及び28年度において,都市鉄道ネットワークの脆弱性や接続性に関する分析を行い,一定の知見を得ることができた.一方で,本研究の対象地域である東京圏では近年,豪雨や降雪等の気象災害による列車の運転見合わせが相次ぐなど,大規模地震以外の面での鉄道ネットワークの脆弱性が指摘されている.このような運転見合わせに伴う利用者への影響を的確に把握するためには,ミクロなデータの活用が不可欠である.そこで29年度では,携帯電話の位置情報を活用した新しい人口統計情報を用いて,災害等の異常時と平常時における地域別の滞在人数を算出して比較するとともに,運転見合わせ区間などとの関係を分析する. また,これまでの一連の研究成果を踏まえ,都市鉄道の耐災害性向上のための政策提言を行う.具体的には,ネットワークの脆弱性評価に基づき重点対策箇所を抽出し,耐災害性向上を促進させる支援策の充実化を提言する.また,震災後の被災路線の重点的な復旧推進において,輸送ネットワークを確保する視点から,鉄道事業間での有機的な連携体制について提言する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度までに都市鉄道ネットワークの脆弱性や接続性に関する分析を行い,一定の知見を得ることができたが,本研究の対象地域である東京圏では近年,豪雨や降雪等の気象災害による列車の運転見合わせが相次ぐなど,大規模地震以外の面での鉄道ネットワークの脆弱性が指摘されている.そこで平成29年度は,このような運転見合わせに伴う利用者への影響を的確に把握することを目的として,携帯電話の位置情報を活用した人口統計データを活用した分析を行なうこととしたが,データの購入に一定の費用を要することから,28年度の助成金の一部を繰り越すこととした.
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度において,携帯電話の位置情報を活用した人口統計であるNTTドコモの「モバイル空間統計」データ(アカデミックパックを予定)の購入及び大量なデータを高速で処理可能なパソコンの購入に使用する計画である.
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