研究課題/領域番号 |
15K06270
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
西田 継 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (70293438)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 国際研究交流 / ベトナム / 水田 / 窒素フロー / 安定同位体比 / モデル解析 |
研究実績の概要 |
アジアで人間活動の影響を強く受けた地域を選定し、安定同位体比分析と水文水質モデル計算の同時アプローチにより、水環境における栄養塩の発生源と移動負荷量を明らかにする。 1年目は、ベトナム北部の旧Ha Tay省とHai Duong省における予備調査を行い、後者で代表的な水田を選定して、窒素フローを対象にプロットスケールの水文水質観測を開始した。また、同省の上流に位置するCau川流域で流出モデルの入力データを収集した。2年目は、本研究が対象とする地域を主としてベトナム北部とすることを決定し、水田プロットの観測を継続するとともに、新たに水田ユニットモデルを作成した。また、流域スケールでの窒素フローのモデル解析も開始した。その結果は以下の通りである。 1)現地協力者との連携により水田プロット観測を継続し、二期作の期間を通して、田面水、土壌水、灌漑水のサンプリング、および、設置した自記式水位計による一部期間の連続水位データを取得することができた。 2)水田環境の窒素フローを網羅した動力学的モデルを作成し、上記データを入力値として各種パラメータを調整した。モデルver.1では、1-2週間程度の短期間で定常計算を行い、モデルの基本構造を設計した。続いてver.2では、春作および冬作期間を通して田面水窒素濃度を再現できるよう、灌漑時と施肥時の境界条件、土壌相互作用、有機態窒素の部分に改良を加えた。 3)Cau川流域を対象として、分布型水文水質モデルSWATを用いて、流域スケールの窒素フローを解析した。同地域では、窒素の河川流出の発生源として水田の寄与が最大であり、畜産がこれに続くこと、地域固有の発生源である小規模工業および家内工業の寄与が無視できないこと、流域全体として面源汚染が卓越するために、降雨流出の影響が顕著であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・研究体制:代表者が勤務する山梨大学と、本研究に参加している修了生(現ベトナム電力大学勤務)および指導学生の出身であるハノイ科学大学は国際交流協定ベースで各種事業の実績があり、本研究ではこの連携を十分に活かして共同研究を推進することができている。また、調査を実施している水田の所有農家には、簡単な補助作業への協力も承諾してもらっており、精度の高い連続観測が実現できている。日本側チームは、初年度は4回、今年度は3回、ベトナムへ渡航しており、進捗状況の確認と計画修正に関する打ち合わせは綿密に行われている。 ・対象地域:当初、日本(山梨県)とベトナムのケーススタディ比較を計画していた。山梨については、過去3年の蓄積データが流出解析に十分であることを確認した。一方、ベトナムについては、国内3大汚染河川のうち2つが北部地域に含まれていること、代表者の現地協力者がハノイを拠点としていることから、現地調査はベトナム北部を中心に展開する方針とした。 ・データ取得:ベトナムの水田プロセスの解析に必要な試料の採取は、1年目に続いて継続的に行われており、上述の通り、今後の持続性も十分に確保されている。現在、各形態別の窒素化合物について濃度および安定同位体比の分析が進行中である。流域モデルの入力については、今年度までにCau川流域の地形、水文気象、水質、人口、産業等のデータ整備を予定通り終了した。 ・モデル計算:本研究のモデルによる解析は2つのレベルを想定しており、一つ目のプロットスケールで田面水窒素濃度を再現する動力学的モデル(濃度モデル)、および、二つ目の流域スケールで窒素流出量を推定する分布型水文水質モデル(流出モデル)の両方とも、本研究で整備したデータにより良好に較正することができた。
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今後の研究の推進方策 |
・ベトナムハイズン省の水田プロットにおける調査については、2年目である今年度に、発生源と反応・輸送プロセスの同定、および、濃度モデルの入力に必要な二期作期間を通した連続データの取得を一旦終了した。最終年度である3年目は、最新の同位体トレーサー解析を用いた集中現位置実験を行い、濃度モデルで調整されたパラメータを実測により検証して、同モデルを完成させる。 ・ベトナムにおける水文観測の結果を利用して、水田からの表面排水量と地下浸透量を推定し、水収支で推定誤差を評価する。この結果と上記で完成した濃度モデルを組み合わせ、水田から河川および地下水へ流出する窒素の年間負荷量を計算する。これについても窒素収支により推定誤差を評価する。以上の負荷量推定と誤差評価が終わった段階で、日本・山梨とベトナム・ハイズンの窒素収支を比較し、両者に共通点と差異をもたらす仕組みを定量的に整理する。 ・SWATモデルをCau川に隣接するThai Binh川、次にDay-Nhue川、最後にベトナム北部で最大面積を占める紅河に適用し、本地域における流域スケールの窒素フローモデル解析の枠組みを完成させる。各流域における河川および地下水への窒素負荷量を計算し、水田その他の主要発生源とその寄与を同定する。SWATから導かれるフロー解析結果についても窒素収支を適用し、推定誤差の評価を試みる。また、プロットスケールの濃度モデルと流域スケールの流出モデルの各々で使用した水田ユニットのパラメータと推定負荷量を比較し、さらに高レベルでモデルの精度保証を行う。 ・最終段階では、以上で開発された技術を駆使して、ベトナム北部で窒素フローを制御するためのシナリオ解析を行い、現地のニーズに適合した方策を提案する。現地のニーズや技術導入の限界を見極めるため、必要に応じて、現地協力者や関係機関からのヒアリングを実施する。
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