アジアで人間活動の影響を強く受けた地域を選定し、安定同位体比分析と水文水質モデル計算の同時アプローチにより、水環境における栄養塩の発生源と移動負荷量を明らかにする。1年目は、ベトナム北部で予備調査を行い、代表的な水田を選定してプロットスケールの水文水質観測を開始した。また、上流のCau川流域で流域モデルの入力データを収集した。2年目は、水田プロットの観測の継続、水田モデルの作成、Cau川の流域モデル解析を行った。3年目は、Day-Nhue川の流域モデル解析と、対象地域で卓越する土地被覆である水田について、水田モデルによる詳細なフロー解析も行った。その結果は以下の通りである。 1)現地協力者との連携により水田プロット観測を継続し、二期作・2年分の期間を通して、田面水、土壌水、灌漑水のサンプリングを行うとともに、気温、降雨、農作業、水位のデータを取得することができた。 2)水田環境の窒素フローを網羅した動力学的モデルを作成し、上記データを入力値として各種パラメータを調整した。安定同位体比の分析により、窒素化合物の主要な発生源と反応経路を同定することで、本研究の最終版であるモデルver.3の基本構造を決定した。本モデルにより、水田内部の窒素フローを詳細に解析できるようになり、山梨とベトナムにおける施肥や水管理の違いが、流出・浸透、脱窒反応、土壌蓄積等の重要な経路に大きく影響していることを確認した。 3)Cau川に続いてDay-Nhue川流域を対象として、分布型水文水質モデルSWATを用いて、流域スケールの窒素フローを解析した。流域界を越えて移出入する窒素の割合が非常に大きいことを推定した。流域内部で発生する窒素の半分以上は農業由来であること、山地、市街地、農地によって窒素化学種の構成割合が特徴的に異なることもモデル解析で明らかにした。
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