研究課題/領域番号 |
15K06271
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
松本 明人 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (30252068)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | メタン発酵 / ろ紙粉末 / 撹拌子回転数 / 担体投入 / セルロース分解 / メタン生成 / 濃度分布 / 菌叢解析 |
研究実績の概要 |
本研究は草本系バイオマスのメタン発酵において、Ⅰ 反応槽内の撹拌を適度に抑えることにより、槽内に投入した固形物や微生物の不均一な分布をつくる、Ⅱ 水処理装置用担体を投入することにより、多種多様な微生物を高濃度に保持することで処理の効率化を可能にするシステムの構築を目標としている。 今年度は前年度に引き続き、撹拌の影響を調べるため、撹拌子回転数10および100rpmに加え、30rpmで連続撹拌する実験をおこなった。続いてメタン生成が10rpmに比べ低かった高撹拌(回転数75rpm)の反応槽に水処理装置用担体を投入し、その影響を調べた。いずれの実験も基質にはろ紙粉末を用い、水理学的滞留時間が8日になるよう一日一回投入した。運転温度35℃である。 撹拌の影響に関しては、① メタン生成量は100rpmでは170mL/日であったのに対し、30rpmではほぼ同じ生成量であったが、10rpmでは1.4倍に増大した。② VSSやセルロース残存濃度は10rpmでは下層は上・中層よりそれぞれ6.8倍および5.8倍ほど高濃度になったが、30rpmと100rpmでは鉛直方向の濃度分布は見られず、槽内は完全混合状態であった。一方、③ 揮発性脂肪酸に関しては、回転数に関わらず、槽内で均一であった。また定量PCR法と次世代シーケンシングによる菌叢解析の結果、④ 総細菌数および総古細菌数に対する撹拌の影響は小さかったが、BacteroidetesやProteobacteriaなどの存在割合に対しては撹拌の影響がみられた。またいずれの回転数でもSpirochaetesが細菌群集のほぼ半分を占めていた。 担体投入に関しては、担体投入後、⑤ メタン生成量は100rpmに比べ、1.1倍増大した。⑥ VSSおよびセルロース残存濃度とも下層のほうが上層よりおよそ1.3倍高濃度になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
撹拌の影響に関しては、撹拌子回転数10、30、100rpmにおけるメタン発酵特性を計画どおり検討出来た。その結果、固形分が底部に沈降するように撹拌する(撹拌子回転数10rpm)と良好なメタン生成がおこること、また固形分が底部に沈降するような撹拌でも発酵の阻害因子になりうる揮発性脂肪酸は槽内で均一になることが明らかになった。また事前の計画には含まれていなかった定量PCR法と次世代シーケンシングによる菌叢解析を実施したところ、撹拌による菌叢への影響を評価出来た。さらに担体投入の影響に関しても、予定通り実験することが出来た。その一方、今年度も水理学的滞留時間を8日から短縮する実験は実施できなかった。 滞留時間の短縮化に関する検討は未実施であるが、研究の中核をなす検討項目である撹拌の影響に関しては明確な結果(固形分が底部に沈降する程度の撹拌:撹拌子回転数10rpm で良好なメタン生成がおこる)が得られ、追加で実施した菌叢解析により微生物学的知見も得られたため、総合的に判断し、おおむね順調に研究は進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
まず28年度実施予定であった水理学的滞留時間の短縮(8日から5日、2日へ)を、これまでの実験を通じて最も良好なメタン生成がおきた撹拌子回転数10rpmにて実施する.また28年度の実験では担体投入を高回転(75rpm)で実施したが、今年度はメタン生成に適した撹拌子回転数10rpmで実施する。これは微生物の存在形態として担体への付着を導入することで、メタン発酵の更なる効率化が図れるかを評価するものである。すなわち、担体を投入することで微生物の高濃度化と多様化が期待されるが、その反面、汚泥の引き抜きが困難になり、未分解セルロースの蓄積などによる反応槽の機能不全も予想される。懸念事項に留意しながら、担体投入の効果について検討をおこなう。さらに28年度から実施し、微生物に関する有用な情報が得られた菌叢解析を29年度も引き続き、実施する。 一方、刈草や稲わら等、実際の草本系バイオマスの処理実験は今回の研究では実施しない。その理由は、形状が不均一なバイオマスの投入により、撹拌や担体投入の効果が不明瞭になる可能性があること、さらに運転上のトラブルが発生し、実験の継続が困難になる危険性を避けるためである。昨年度、実施を先送りした撹拌パターン(撹拌時間や撹拌間隔)の検討同様、実用面においては重要な項目であるものの、実験結果の明確な評価が困難になるため、本課題での実施を見送り、今回はより明解な最適メタン発酵条件の確立を優先する。
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