研究課題/領域番号 |
15K06283
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 典之 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60401270)
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研究分担者 |
梶原 浩一 国立研究開発法人防災科学技術研究所, その他部局等, その他 (10450256)
土佐内 優介 国立研究開発法人防災科学技術研究所, その他部局等, その他 (10737597) [辞退]
長江 拓也 名古屋大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (90402932)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 画像処理手法 / 損傷量計測 / 鉄筋コンクリート部材 / 変位履歴 / 載荷速度 |
研究実績の概要 |
本研究では,地震による非定常変位履歴および載荷速度が鉄筋コンクリート構造物の損傷量(ひび割れ幅,ひび割れ長さ等)に与える影響を検討し,破壊メカニズムに基づく損傷量評価手法の基盤技術確立を目的としている。研究初年度は,非定常変位履歴をうける鉄筋コンクリート部材の損傷量進展過程についてデジタルカメラを用いた静止画撮影データをもとに画像処理手法を用いて損傷量を計測するとともに,今後実施予定の動的載荷実験における損傷量計測方法の確立に向けた予備検討として動画の画像処理方法について検討を行った。 既往の擬似動的載荷実験で得られた非定常応答変位履歴をうける鉄筋コンクリート柱部材の損傷量進展過程について画像処理計測を行ったところ,画像処理計測結果は目視計測結果とほぼ同じ値を示した。また,非定常応答変位履歴により負側載荷時に初めて明瞭なせん断ひび割れが入った本試験体では,その後,負側載荷の方が正側載荷の同変形角と比べて最大ひび割れ幅が大きくなることが分かった。さらに,負側載荷では同変形角の処女載荷時と重複載荷時とでほぼ同じ最大ひび割れ幅を示すのに対し,正側載荷では処女載荷時よりも重複載荷時の方が最大ひび割れ幅が大きめになることが分かった。あわせて,平均せん断ひび割れ幅と最大せん断ひび割れ幅の比の経験最大部材角ごとの推移について,研究代表者が以前提案した関係式(提案式)と本実験での計測結果を比較したところ,本実験では処女載荷時は提案式を下回ることがある一方で,重複載荷時は提案式を上回る結果となった。即ち,処女載荷の方が最大ひび割れ幅となるひび割れのみが集中的に開くのに対して,重複載荷では最大ひび割れ幅となるひび割れ以外のひび割れも均等に開く傾向がみられた。 なお,動画を含む画像処理手法の検討においては,二値化閾値の最適解を得る手法の確立が最重要課題であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の実施に際して,別途実施された非定常変位履歴をうける鉄筋コンクリート部材実験に参画し損傷量計測が今年度中に実施できたことは当初予定よりも大きく研究を進捗させることとなった。一方で,動的載荷実験における損傷量動画計測とその画像処理手法の開発がもう一つの課題となっていたが,9月11日に宮城県で大雨特別警報が発表され,実験装置が一部被害を受けたことにより,振動台を用いた動画計測装置の検証作業が出来なくなったことは研究の進捗においてやや遅れを生じさせたともいえる。 しかし,前述した静的実験における損傷量計測画像データの蓄積は,損傷量計測における画像処理手法自体の問題解決に大きく寄与することとなり,全体としてはおおむね順調に進んでいるものと判断している。なぜならば,動画計測における画像処理は,究極的には動画の各フレームを静止画として処理することと同義であるためである。動画の解像度(有効画素数)は一般に静止画の解像度(有効画素数)より低いことから,計測精度の関係で複数台で撮影した動画(画像)を結合して画像処理計測する必要がある。その際,撮影環境の問題で複数台で撮影した画像間の平均明度差が大きいと最適な二値化閾値を得られない場合があり,二値化画像においてひび割れ部とノイズとを分離するアルゴリズムに無理が生じ,ノイズを削除しすぎることでひび割れを抽出しきれないなどの問題が生じることが研究初年度の検討で明らかとなった。そのうえで,解決方法として有力なツール(人工知能)の検討も研究初年度に着手できたことから,総合的に判断して,本研究は現段階では概ね順調に進んでいるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,動画を用いた損傷量画像処理計測システムの開発を進めるとともに,損傷量計測動的載荷実験を実施する。研究代表者の事前分析に基づき,動的載荷の影響が見られるせん断余裕度の大きい曲げ部材,特に修復性能評価を対象としていることから全体崩壊形架構において損傷発生が計画される梁部材を想定し,約1/2スケール試験体を製作する。載荷装置は,研究分担者の協力により防災科学技術研究所・大型耐震実験施設の使用を予定している。慣性質量を用いて大振幅加振を可能とした振動台実験による動的載荷実験における載荷治具・重錘などの準備において,最小限の予算で実験が実施できるよう研究代表者および研究分担者間で緊密な連絡を取っている。 研究最終年度は,実験結果の分析を通して,動的載荷が損傷量進展に与える影響を破壊メカニズムの観点で明らかにするとともに,解析的手法による損傷量評価技術の確立に資する新たな知見をとりまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
動的載荷実験における損傷量動画計測とその画像処理手法の開発において共同研究者の旅費および謝金を予定していたが,9月11日に宮城県で大雨特別警報が発表され,実験装置が一部被害を受けたことにより,振動台を用いた動画計測装置の検証作業が出来なくなったことで,旅費および謝金の使用が限定された.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に実験的検証作業を持ち越したことから,次年度の旅費・作業謝金の一部に充当する予定である.
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