研究課題
現在,地震の活動期にあり,耐震性能が不足する建物(既存不適格建物)の補強が急務である。開発対象の既存鉄筋コンクリート(以下,RC)造のマンションは,桁行(開口側)方向の耐震性能が不足するケースが多い。そのため従来行われているRC増設耐震壁やK型ブレースを入れることは,採光の確保,使用上の観点から困難であり,居住者の理解も得難い。本開発では,建物外部に面する既存袖壁付きRC柱を対象に,外面側の袖壁にポリビニルアルコール繊維補強モルタル(以下,PVA-FRM)を吹付けて増厚補強し,住みながらの耐震補強を可能としたPVA-FRM吹付け増厚補強構法を開発すると同時に,その補強設計法を開発する。最終年度の研究成果は,平成28年度に製作した梁型付き既存袖壁付きRC柱および補強量を2水準変動させたPVA-FRMで袖壁部に増厚補強した試験体2体について曲げせん断実験を行った。補強試験体は梁側面にアンカー筋を打込み,増加したせん断力を上部梁からPVA-FRMで増厚した袖壁を介して下部梁に伝達させる機構とした。実験の結果,本補強構法により,せん断耐力が向上でき,せん断補強に効果を発揮することがわかった。一方で,補強限界も存在することが明らかとなった。さらに,補強設計のせん断終局強度式は2017年版RC耐震診断基準,RC耐震改修設計指針の袖壁付き柱の各種強度式を拡張,修正したものを提案し,その妥当性を示した。なお,上記内容は研究期間全体を通じて実施した研究成果でもある。本開発の意義,重要性であるが,本補強構法は既存不適格のRC造建物の耐震性能向上を目的に開発されたものである。そのため,住民の安全・安心はもとより,国土強靭化に大きく貢献するものである。さらに,本補強構法は建物外部から補強するため住みながらの補強が可能で,耐震補強工事に伴う住民負担を大きく軽減するための一助になると考えられる。
すべて 2017
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コンクリート工学年次論文集
巻: Vol.39,No.2 ページ: 931-936