研究課題/領域番号 |
15K06292
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 裕一 京都大学, 工学研究科, 助教 (20293889)
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研究分担者 |
金子 佳生 京都大学, 工学研究科, 教授 (60312617)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 長周期地震 / 棟間衝突 / 衝突試験 / 残留性能検証試験 / 衝突用接合要素 / 鉄筋コンクリート構造 / 非線形時刻歴応答有限要素解析 |
研究実績の概要 |
長周期地震として知られる1985年メキシコ地震において被災した14階建鉄筋コンクリート(RC)造集合住宅の倒壊に至る機構について,特に棟間衝突の影響を実験と数値解析により解明するため,(1)中間階の柱を模した試験体による載荷実験,(2)最上層階の架構を模した試験体による衝撃載荷実験,(3)衝撃載荷実験の有限要素解析に基づく衝突部のモデル化,(4)単棟架構の非線形時刻歴応答有限要素解析,および(5)連棟架構の非線形時刻歴応答有限要素解析を行った。 (1)中間階柱の実験では,柱と接触・摩擦を引き起こす隣接柱試験体の挙動の比較により,接触抵抗による影響を定量化し,接触抵抗構成モデルを作製した。(2)衝撃載荷実験により,落下錘重量に比例して最大部材角の増大,卓越周期の増大,等価粘性減衰定数の低下を確認した。(3)衝撃載荷実験のFEM解析においては,応答変位,リバウンド荷重,力積,ひび割れ分布の各項目について実験結果との整合を確認した。また衝突後の自由振動の卓越周期,および衝撃載荷後の剛性低下についても実験結果を適切に再現した。この結果から,比較的低速(5m/s程度)の衝撃荷重を受けるRC架構試験体の衝突部モデル化にあたっては約100kN/mmの剛性を有する接合要素を挿入が適切であることを確認した。(4)連接3棟のうち代表的な1棟について有限要素モデルを構築し,非線形時刻歴応答を計算した。(5)前項の架構モデルを2棟並べたモデルにより解析を実施した。棟間接触を再現する手法として接触構面に位置する柱の柱頭同士をリンク要素にて接続し,上記の柱接触試験および落下錘衝突試験の結果を反映した構成則を適用した。併せて床積載重量の変動を解析パラメータに加えた。計算の結果,隣接する棟間の床重量差が10%を超えると棟間の衝突領域が拡大し,重量増大の影響と相まって倒壊挙動を始めることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度は以下の研究作業を実施した。 (1)最上層階架構の1層1スパン試験体を作成し,落下錘衝突試験を実施した。衝撃載荷実験では,落下錘重量が一定以上の場合に,衝突時における落下錘のリバウンドによって試験体への入力が分散するため試験体の最大加速度は落下錘重量と比例しないこと,一方,試験体の最大部材角や残留部材角はおおむね比例すること,試験体の損傷によって卓越周期は長くなっていることを確認した。衝突後の静的載荷試験では,落下錘重量が小さい場合には剛性低下は確認されなかった。逆に落下錘重量が大きい場合は剛性の低下や等価粘性減衰定数の低下(最大で20%低下)を確認した。 (2)衝撃載荷実験のFEM解析においては,応答変位,リバウンド荷重,力積,ひび割れ分布の各項目について実験結果との整合を確認した。また衝突後の自由振動の卓越周期,および衝撃載荷後の剛性低下についても実験結果を適切に再現した。この結果から,比較的低速(5m/s程度)の衝撃荷重を受けるRC架構試験体の衝突部モデル化にあたっては約100kN/mmの剛性を有する接合要素を挿入が適切であることを確認した。 (3)昨年度に作成したヌエボ・レオン棟の有限要素モデル(全節点数23,256,総自由度数115,974)に上記の100kN/mmの剛性を有する接合要素を適用し,地震応答解析を実施した。また昨年度の計算では考慮しなかった床積載重量の変動を解析パラメータに加えた。計算の結果,隣接する棟間の床重量差が10%を超えると棟間の衝突領域が拡大し,重量増大の影響と相まって倒壊挙動を始めることを確認した。 現在29年(最終年度)の作業に備え,3棟連棟の全体架構有限要素モデルを作成し既に計算の一部を開始しており,最終的な損傷と倒壊挙動の評価に必要な要因をすべて考慮している。以上の理由から,本研究は概ね順調に進捗しているものと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
29年度は(1)棟間衝突のモデル化にあたり,解析上・設計上敏感な影響を及ぼす反発係数の定量化をはかるため,追加の衝突実験を行う。また(2)この追加実験と前年度までの成果を反映した3棟連棟の全体架構有限要素モデルの解析結果に基づき,ヌエボ・レオン棟の倒壊原因を定量的に評価する。 (1)追加衝突実験については,衝突部の設計詳細をより実構造物の状況に近づけた架構試験体および載荷装置を製作する。すなわち28年度には鋼製落下錘をやはり鋼製ロードセルに衝突させる形で実施していた,これに対し29年度は落下錘とロードセルにコンクリート系材料を組み込み,より実状に近い反発係数と定量化と構成モデルの最適化を行う。この追加実験は,28年度と同様に残留性能を定量化し,かつ有限要素解析による衝突部モデル化の確認を行う。 (2)3棟連棟のヌエボ・レオン棟全体架構有限要素モデルについては,竣工時から地震発生時までの23年間におよぶコンクリートの乾燥収縮ひび割れを再現し,かつこの23年に生じたと推定される地盤の不同沈下も再現したうえで,地震応答解析を実施する。この解析によって,ヌエボ・レオン棟の倒壊原因を工学的に十分な客観性をもって評価できると考える。 上記の作業に加え,固有周期変化と棟間衝突を有限要素プログラム上で容易にシミュレーションできるような,将来的な実務者用インターフェースを構築する。あわせて(4)棟間衝突実験の記録映像,解析結果のCGアニメーションを含む研究の概要を映像にまとめ,29年度内に論文,会議,WEB等で公開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試験体の設計上の工夫(試験場重要でない部分の断面積の削減等)により,材料費の節減を図ったため,当初予算を多少下回った。 同額の次年度使用額を計画して,追加試験と解析に充てることとした。
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次年度使用額の使用計画 |
追加試験の計測分解向上のため,大容量メモリカード(約\7,000)の購入を計画する。 また大規模解析作業に対応するため,増設メモリ(\17,000)の購入を計画する。
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