研究課題/領域番号 |
15K06305
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
山下 哲郎 工学院大学, 公私立大学の部局等, 教授 (80458992)
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研究分担者 |
石川 浩一郎 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50168192)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 耐震壁 / 格子 / 立体トラス / 六角形 / 座屈 / 有効剛性 |
研究実績の概要 |
1)SS400鋼板をくり抜いて製作した正六角形格子および、ボロノイ分割法を適用してパターンに不規則性を導入した六角形格子(以下ボロノイ格子)鋼板の漸増繰返しせん断実験を実施した。その結果、正六角形格子鋼板ではせん断変形角0.04rad(1/25)に達しても座屈が生じず、荷重変形曲線も安定した紡錘形を描いたが、ボロノイ格子鋼板では最終の振幅0.04radサイクルにおいて面外座屈を生じた。また正六角形、ボロノイ格子鋼板共に数か所に曲げによる亀裂が生じた。 2)汎用有限要素コードMARC2010を用いて実験挙動の再現を試みた。格子の1部材を6つの梁要素に分割、鋼材の1軸応力ひずみ関係には実際の引張試験結果に近いMenegetto-Pintoモデルを使用し、等方硬化則を適用した上で接合部の剛域を考慮すると荷重変形曲線を精度よく再現する事ができた。解析の結果、六角形格子は曲げ支配型ではあるが、1/300程度の小さなせん断変形角で降伏してエネルギー消費を開始すること、降伏は縦材に集中的に生じ曲げ亀裂の発生箇所と解析が対応すること、塑性ヒンジではひずみが累積して顕著な耐力上昇を生じるが、一方でほとんどの斜材は弾性を保つことが判明した。また2014年度実験の結果も併せて正規化細長比Λcで面外変形の発生を評価すると、概ねΛc=0.25以下であれば面外変形が生じないことが判明した。また誤差は大きいものの連続体置換により剛性、耐力が概ね手計算で推定可能な事も判明した。 3)複層トラスの研究では、ヒューズ型接合部を用いた立体トラスの復元力特性をモデル化し、曲率を有する2層立体トラス壁面で支持された構造の非線形応答解析を実施し、面外と面内方向の応答特性を調べると共に、ヒューズ型接合部のボルトの塑性率が概ね2以下であれば部材の座屈に伴う大幅な耐力低下が生じないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目標は、単層、複層それぞれの格子平板で耐震壁を構成する際の基本的な耐力特性を把握し、その評価方法を見出すことである。 単層格子の研究では、剛性は高いが顕著な座屈を生じる三角形格子の欠点を埋めるものとして六角形格子鋼板の実験を試み、座屈が生じにくく安定した挙動を示すこと、小さな変形から縦材が降伏してエネルギー消費を開始することなど、耐震壁として優れた性能を示すことが判明した。また実験結果を精度よく有限要素解析で再現できることを示した。また連続体置換した六角形格子の有効剛性の表現と、巨視的にひずみ硬化を生じる前の降伏耐力と弾性剛性の概算式を誘導した。このように、六角形格子鋼板についてはせん断に対する性能が概略把握でき、その評価、推定も可能になった。しかしながら、実際の建物の外周壁として使用する場合にはせん断だけでなく、鉛直荷重や曲げも作用するため、これら複合応力下における耐震性能の研究が必要である。また構面外座屈の発生条件を定量化することも必要である。 複層格子においては、ヒューズ型接合部を有する2層立体トラス壁面の地震応答解析を実施し、安定挙動を示す限界を把握している。しかしながら、部材の降伏、座屈後の挙動と変形性能については実験が不足しており不明な点が多い。また従来の研究は一般的な四角錘体立体トラスを対象としているが、必ずしもそれが最も優れた性能を発揮するとは限らない。他の構成法による立体トラスの実験を実施し、構成法に依存した塑性化、座屈挙動の特徴を調べる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度においては、単層格子については六角形格子平板を対象に、有限要素法によりパラメトリックな数値解析を実施し、構面外座屈の生じる条件を正規化細長比、あるいは等価な幅厚比など適切な指標で表現することを試みる。 複層格子については、当初アルミ製のボールジョイント式立体トラス構造での実験を予定していたが、アルミが高価で入手しにくい材料であるため、一般性の高い鋼材による複層トラスの実験を実施することとした。その際通常の四角錘体トラスだけでなく、上弦面を斜交にするなど他の構成法によるトラスの実験も実施し、構成法に応じた力学的特性を把握するとともに、鋼材の有する優れた変形性能が十分に発揮できる条件を検討したい。
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