研究実績の概要 |
コンサートホール音場の残響音がもたらす聴覚的効果には、時間的性質を表す‘響きの長さ感’(Reverberance, REV)と空間的性質を表す‘音に包まれた感じ’(Listener envelopment, LEV)の存在が知られている。本研究の目的は、後期反射音による聴覚的効果を特徴づける新たな切り口として“響きの質感”(Texture of reverberation, TRV)を定義し、これが、ホール音場で知覚される音像の質的側面を表す要素感覚として有効であることを明らかにすることである。初年度の実績は下記となる。 1.実験システムの構築:被験者実験に供するため、簡易無響室内に反射音や残響音の分布密度を可変できる音場合成システムを構築した。畳込み演算装置を中心とするマルチスピーカによる再生方式であり、直接音用1系統, 初期反射音用2系統, 残響音用6系統をパーソナルコンピュータ(MIDI)により一括制御する方法とした。 2.音響心理実験による成果概要:(1)ホール空間が“拡散している感じがする”(Diffusional Impression, DI)という印象語に関するアンケート調査並びに心理実験の結果から、DIが、‘響きの質感が滑らかな-粗い’といった質的な性質を有する形容語からなる因子、並びに‘拡がりのある-やせた’といった空間的な性質を持つ形容語からなる因子を有することを示した。(2)後期残響音の時間分布密度と残響時間を独立に変化させた刺激音場を用い、響きの印象に関する非類似度実験、並びに(3)TRVとREVの心理的尺度値を求めるための一対比較実験を各々実施した。これらの結果から、響きの印象評価において‘響きの質感’と‘響きの長さ感’は有意に区別して知覚されること、また後期残響音の時間分布密度の変化が‘響きの質感’の知覚に弁別可能な影響を与えること等を明らかにした。
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