研究実績の概要 |
コンサートホール音場の後期反射音がもたらす聴覚的効果には、時間的性質を表す‘響きの長さ感’(Reverberance, REV)と空間的性質を表す‘音に包まれた感じ’(Listener envelopment, LEV)の存在が知られている。本研究の目的は、後期反射音による聴覚的効果を構成する新たな要素として“響きの質感”(Texture of reverberation, TRV)を定義し、これがホール音場で知覚される音像の質的側面を表す要素感覚として有効であることを明らかにすることである。平成28年度の実績概要は下記となる。 1.後期反射音の時間分布特性と‘響きの質感’の関係に関する成果:後期反射音の時系列上の一様性を表す時間分布特性(TDIL)の周波数特性がTRVの知覚に与える影響について検討した。すなわち、高音域時間分布指数TDIL,H3(2k-8kHz帯域)および残響時間を独立に変化させた9つの刺激音場を用い、TRVの心理的距離尺度を求めるための音響心理実験(無響室内において電気音響的に模擬音場を構成し被験者に聴感印象を評価させる実験)を実施した。この結果から、TDIL,H3の変化がTRVの知覚において弁別可能な影響を与えること(相関係数0.89)、また残響時間の変化は影響しないことを明らかにした。 2.後期反射音の空間分布特性と‘響きの質感’の関係に関する成果:後期反射音の到来方向分布がTRVの知覚に与える影響について検討した。すなわち、時間分布特性を一定(TDIL,H3=0.65)に保ちながら、方向別後期反射音エネルギのばらつき度合いを表す空間分布指数SDILを変化させた刺激音場を用い、TRVに関する心理実験を実施した。この結果から、高音域時間分布指数TDIL,H3が高い場合、後期反射音のSDILの変化は‘響きの質感’の知覚に弁別可能な影響を与えないことを示した。
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