研究実績の概要 |
コンサートホール音場の後期反射音がもたらす聴覚的効果には、時間的性質を表す‘響きの長さ感’(Reverberance, REV)と空間的性質を表す‘音に包まれた感じ’(Listener envelopment, LEV)の存在が知られている。本研究の目的は、後期反射音による聴覚的効果を構成する新たな要素として“響きの質感”(Texture of reverberation, TRV)を定義し、これがホール音場で知覚される音像の質的側面を表す要素感覚として有効であることを明らかにすることである。平成29年度の実績概要は下記となる。 1.後期反射音エネルギの平均時間密度と‘響きの質感’の関係に関する成果:これまで後期反射音の時系列上の一様性に着目して検討してきた。続いて、後期反射音の時系列上のエネルギ密度に焦点をあて、反射音群の平均時間密度dLがTRVの知覚に与える影響について検討した。すなわち、後期反射音群の平均時間密度を変化させた模擬音場を使用し、TRVの心理的距離尺度を求めるための音響心理実験(無響室内における被験者実験)を実施した。平均時間密度は、後期反射音の付加本数をシグナルプロセッサによるディレイ設定個数で変化させることにより制御した。この結果から、平均時間密度dLの変化がTRVの知覚において弁別可能な影響を与えることを示した。 2.後期反射音エネルギの尖度特性と‘響きの質感’に対応する物理指標に関する成果:さらに、後期反射音の時系列上のエネルギ密度の観点から、反射音エネルギ頻度分布をもとに尖度値KLを算出し、TRVの知覚強度との関係を検討した。その結果から、尖度値KLと平均時間密度dLの関係並びにKLの時間変化特性を明らかにし、尖度値KLが‘響きの質感’TRVの知覚に対応する予測可能な設計指標として有効であることを示した。
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