透析患者は、貧血や血行不良により健康者に比べ体感温度が低くなったり、末梢神経障害により温冷感が鈍化しているため、同じ室内において健康で活動量の高い医療スタッフとの間で快適性の差が生まれやすいと考えられる。そのため、患者・医療スタッフともに環境に対する不満・不快感を抱えているのが現状である。本研究では、天井放射冷暖房システムを設備した透析室を対象とし、温熱環境実測・快適性調査などを通して、透析患者、医療スタッフ各々の快適性を明確化する。平成30年度は、以下のような研究を実施した。 (1) 透析室における実測調査結果の解析:透析室実測結果の解析及び結果をまとめた。 (2) CFDによる透析室・患者の生理量の再現:CFDに実測時の温熱環境測定結果及びベッドや機器の使用状況について、実測時の状況を入力することで、冬季における室内の温度分布等を再現するとともに、患者の着衣を再現した人体モデルを組み込むことで、患者の皮膚温分布等のシミュレーションを行った。透析室内の温熱環境や患者の着衣量・ふとんのかけ方等について、前年度までに実施した実測結果及び人工気候室における実験結果をシミュレーションに入力することで、より現実に近い状態の温熱環境及び在室者の生理量や快適性を評価できるようになった。 また、補助事業期間(H27~H30)全体では、以下のような項目について研究を行った。 (1)文献調査、(2)中央監視温湿度データの解析、(3)長期温熱環境測定(4)透析室における実測調査、 (5) CFDによる透析室の温熱環境再現および患者の快適性・生理量再現 以上より、天井放射冷暖房を設備した人工透析室での温熱環境の状況及び患者とスタッフの快適性が明らかになった。実測結果とCFDにより温熱環境や快適性のシミュレーションが可能になったことにより、今後の病院設計等の基礎的データ・ツールとなることが期待される。
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