研究課題/領域番号 |
15K06342
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研究機関 | 長崎総合科学大学 |
研究代表者 |
山田 裕巳 長崎総合科学大学, 地域科学研究所, 教授 (30610787)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 悪臭 / 疲労 / 自律神経 / ヒノキ / 臭気強度 |
研究実績の概要 |
高齢者介護施設におけるし尿・汚物から発散される臭気は介護者の長期的なストレスを生じさせる恐れがある。この問題の解消を目的として臭気環境および脳疲労負荷下での香りの体感による生理的心理的影響を明らかにする目的とする。 平成29年度は臭気環境を伴わない脳疲労負荷後の香りの体感による生理的な影響に関して検討した。この際、木の香りの成分であるα-ピネンに疲労軽減効果があることが明らかにされていることから、ヒノキの香りを主対象に選択するとともに、嗅覚順応を考慮し、これを解消するための断続的な体感を考慮した。その上で、ストレスを感じる環境を経た後に木の香りを体感することによる生理的ストレス軽減の影響を明らかにした。 試験は被験者を健全な学生(男女6名ずつ)を4班に分け、生理評価を行う心拍センサを設置したうえで、試験前調整期間である「安静期間」、PC上でタスク(2-back test)を行うことで脳疲労を加える「疲労負荷期間」、香りを伴った休息による疲労回復効果を検証する「香り体感期間」、試験後の「安静期間」に分けて実験を行った。「香り体感期間」では、「香り発生無し」「連続発生」に加え、心理評価上嗅覚順応を解消する香りの「断続発生」条件を設けた。これは2分30秒ごとに香りの発生と停止を繰り返す条件である。これらを順序効果を考慮して、各班の体感順序を設定した。 実験の結果、「断続発生」条件は、「香り発生無し」条件および「連続発生」条件に比較して、香りを体感している期間ではストレス指標が低下し、一方で香り発生を停止している条件下ではストレス指標が増加する傾向が見られた。このことからヒノキの香りの断続的な発生が自律神経系指標へ影響する可能性が見られた。また、加えて主観的な快適性の向上にも効果が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、臭気環境下での介護作業が自律神経やパフォーマンスへどの程度影響するかを理解し、その改善の方法を探るものである。平成29年度は、快適かつ生理的に良い効果を生むとされる香りの体感に関して、より有効な体感方式を導くために、脳疲労を考慮した臭気体感後に香りの体感を実施し、その効果を検証する予定であった。しかし、予定していた臭気環境下での脳疲労の実験空間の設置および必要測定機器の準備などに必要以上に時間を要し、当初予定していた比較評価試験の設定に関して十分な検討を加えることができなかった。また加えて、臭気を体感しない状態での断続的な香りの体感が生理面にどのように影響するかの検証の必要性があると判断した。 このため、平成29年度は疲労回復効果があるとされる香りを用いて、嗅覚順応を低減できる断続的な香りの体感が生理面に及ぼす影響に関する実験計画を立案し、これに基づく最適な試験装置を構成するとともに必要人員を対象とした被験者試験を計画実施した。その際、既往研究調査に基づき、4つの香りの体感条件を設定し、2分30秒ごとに香りを断続的に供給する「断続発生」条件などの具体的な動作条件の設定を行うことができた。また、生理面への評価に関しては、無線でデータを収集することが可能な心拍センサを「安静期間中」に設置し、被験者に意識させることなく実験期間中継続してデータを採取することを可能とした。最後に代表的な心地よい香りであるヒノキの香りを対象として、体感条件下での生理的影響を評価することができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度推進内容は、臭気環境下での作業に伴う疲労に対して、香りによる改善効果に関する知見を得ることである。このため、今後の研究の推進方策として、以下の検討を進める。 1)臭気発生下、または臭気体感後における断続的香り発生・体感装置の検討:平成29年度はヒノキの香りを断続的に発生させ、その生理的な影響を把握した。今後、悪臭環境下または悪臭体感終了後において疲労回復効果のあると思われる香りの体感を実施する。具体的には、悪臭物質であるイソ吉草酸を不快に感じる香り濃度に設定し、体感させるものである。平成30年度は、その環境を実現するために、所定のイソ吉草酸水溶液を一定で気化させつつ、ヒノキの香りを体感する装置を開発する。 2)香り体感の複数室化:これまで1つの室内空気評価チャンバーを用いていたため、被験者の評価は一人ずつ実施せざるを得ず、比較評価に課題があった。平成30年度は、計3区画にて同時に3名の被験者試験を行うことができるように変更する。これにより、3名を異なる試験環境下に置くことが可能となり、例えば、2室において臭気環境下、1室は臭気無し環境下に設定することで、臭気の影響が被験者の香りの体感による生理的影響にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることが可能となる。 3)総合的な心理的生理的改善効果の検証:本臭気発生装置を用いた後に、様々な香りの体感条件を作り出し評価することで、どのような香り体感方法が介護者の心理的・生理的疲労を改善することができるかを明らかにする。以上の推進を行うことで、最終的に作業パフォーマンス及び疲労への影響とその改善技術の提案に関してまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
第三年度においては、断続的な香り体感装置に関する試作を行い、研究に活用した。しかし、臭気環境下での実験システムを構成することができず、予定を延長するとともに、当初見込んでいた研究費に比較して少額となった。 次年度においては、臭気環境下での体感を実現するために計3区画にて同時に3名の被験者試験を行うことができるように室内空気評価チャンバーを構成する。この上で、安定的な臭気濃度を維持できる方法を実現する。これにより、被験者の負担を減らすことに加え、条件の制御が容易になり、高精度な試験を進めることが可能となる。 また平成29度は、研究成果をまとめHealthy Buildings Europe 2017(Poland)に参加し発表した。次年度はこれに加えて、査読論文にまとめ発表する予定であり、このための費用を使用する予定である。
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