研究課題/領域番号 |
15K06352
|
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
藤岡 泰寛 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 准教授 (80322098)
|
研究分担者 |
中井 邦夫 神奈川大学, 工学部, 教授 (40313340)
阿部 俊彦 早稲田大学, 総合研究機構, 客員主任研究員 (00608466) [辞退]
前田 昌弘 京都大学, 工学研究科, 講師 (50714391)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 戦後 / 復興 / 防火建築帯 / 都市形成史 / ハウジング史 / 建築遺産 |
研究実績の概要 |
29年度は当初計画の最終年度として、前年度までに引き続き横浜市関内関外地区に現存する防火建築帯内の建築(以降、防火帯建築)の所在確認をすすめ、不動産登記簿謄本により現オーナーの情報を把握した。あわせて閉鎖登記簿謄本も入手し、建築当時の融資詳細について把握した。28年度は昭和27年度以降の10年間を対象として進めたが、29年度は昭和37年度以降の10年間を対象とした。引き続き横浜市文化観光局との共同研究として進めることとして、アンケート調査およびヒアリング調査を実施した。29年度は対象建築棟数96棟(オーナー数121)に対して宛先不明返送をのぞき110通発送、31通の回収(回収率約28%)を得た。前年度実施分とあわせて最終的に現存216棟(オーナー数374)に対して宛先不明返送をのぞき314通発送、96通回収(回収率約30%)となり、前年度の分析を発展させ、2箇年度分の集計分析を行った。並行して文化観光局と連携しながら利活用事例の新規開拓も継続しているが、いまのところこれまでの事例に加えての新しい利活用事例開拓(とくに防火帯建築の大きな特徴である共同建築ならではの利活用事例開拓)には至っていない。JIA日本建築家協会神奈川地域会(飯田善彦会長(当時))における防火帯建築研究会(笠井三義代表)においても定期的な研究会を重ね、建築解体時の調査や記録にも取り組んでいる。本科研研究の分担研究者でもある中井邦夫は、ひとつひとつの防火帯建築の建築的特徴を小冊子にまとめた「BA」シリーズの刊行を続けており、29年度は2冊刊行した。また、2018年2月23日に、公益社団法人横浜歴史資産調査会(ヨコハマヘリテイジ)主催の、戦後建築をテーマとしたセミナーにて研究代表者の藤岡が横浜防火帯建築について報告した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度は当初、研究最終年度として、昭和37年度以降の10年間に対象を拡張し、アンケート調査等を実施する予定であったが、この点については予定通り完了した。横浜市との共同研究の体制と、JIA日本建築家協会神奈川地域会との連携も継続し、定期的に会合を重ね研究成果の共有や、建物解体時調査などを進めた。研究成果還元としては、以下の3点に集約される。(1)学術研究報告:まず建築学会大会において学術的な観点からの調査研究報告を行った。会場からは所有関係の複雑さに伴う課題や可能性についての質疑があった。あわせて都市計画学会において横浜の戦後復興過程を、融資耐火建築の初期形成から読み解き早期復興の背景要因を明らかとする研究論文を発表した(査読付き採択)。会場からは細分化した権利関係での共同化実現の背景・要因に関する質問が寄せられた。(2)記録保存活動:JIA日本建築家協会神奈川地域会における防火帯建築研究会(笠井三義代表)において定期的な会合を重ね、解体時の建物調査などの記録調査を進めて、こうした活動等も反映した形で、分担研究者(中井)が小冊子にまとめた。活動には、建築を学ぶ大学生や大学院生らが調査研究や演習などで参加し、教育的効果も得た。(3)セミナー等への参加:公益社団法人横浜歴史資産調査会(ヨコハマヘリテイジ)主催の、戦後建築をテーマとしたセミナーにて研究代表者の藤岡が横浜防火帯建築について報告した。 以上のような取り組みを進めながら、少しずつ建築オーナーからの問いあわせも寄せられつつある。こうした関心の高まりを横浜らしい、防火帯建築らしい利活用に結びつけていくことが今後の課題である。全体としてはおおむね順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では、29年度が最終年度であったが、横浜市文化観光局との共同研究が継続していること、JIA内での研究会が存続していること、また、研究成果の出版化に向けた取り組みがスタートしていること等の動きをふまえ、補助事業期間を延長することとした。具体的には、当初予定していた他都市事例調査を一部変更し、これまでの横浜における研究をより精緻化しこうした波及的な取り組みに反映し、研究成果を社会に還元することに重点を置き研究を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
3箇年度の研究計画は完了した。一方で横浜市文化観光局との共同研究や、研究成果の出版化などの取り組みがスタートしている。つまり、調査自体は順調に完了しつつあるが、研究に関連した取り組みが増えてきた。このため当初予定していた他都市事例調査を一部変更し、これまでの研究をより精緻化しこうした波及的な取り組みに反映し、研究成果を社会に還元する必要があると判断した。こうした判断から科研費助成事業補助事業期間を1年間延長することとした。次年度使用額(500807円)については、調査報告書の作成・印刷経費、セミナーやシンポジウム、建築ツアー等の実施経費、出版化に向けた図書・研究資料等の購入費に充てる。
|