昨年度に引き続き、日本海沿岸部に分布する伝統的建築物に関する調査研究を実施している。舟小屋に関しては、特に集中して分布が確認された隠岐の島を対象として資料を取りまとめ、建築学会計画系論文集に報告した。また、島根半島周辺において確認された特徴的な数種類の舟小屋に関する追加調査を実施した。日本海沿岸部と宍道湖周辺、大橋川周辺で建築形式が異なっており、立地と生業に対応した構造となっている。このように一定の地域内において形式の異なる舟小屋が複数確認されることは珍しく、他地域では見られない特徴である。さらに調査分析を進めたうえで論文等として報告する予定である。 日本海沿岸のその他の特徴的な建築物に関する調査としては、安来市の港周辺における鉄問屋の町並み調査(4/14~計10回以上)、松江市美保関における町並み調査(6/3~計4回)、出雲市の玉葱乾燥小屋の調査(6/10~計2回)、袖師窯等の窯元の作業空間調査(6/6~計2回)、有福温泉の景観と旅館建築調査(6/13~計7回)等を実施している。安来は古くから鉄の積出港として栄えた地域であるが、悉皆調査により多数の伝統的建築物が現存することが確認された。美保関も交易港として繁栄した地であり、伝統的な景観と建築物が現存している。本年度は最終年度であるが、調査において地域の概要が確認された安来と美保関については、かつての日本海沿岸地域における産鉄と交易に関わる重要な地域と位置付けられることから、今後も継続して調査を実施していく。
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