研究課題/領域番号 |
15K06363
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
柴田 建 九州大学, 人間環境学研究院, 助教 (60325545)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ニュータウン / 空き家 / リノベーション / コンバージョン / サードプレイス / 中古住宅 / 郊外 |
研究実績の概要 |
本研究は,開発から時間が経過し高齢化,更には空き家・空き地の増加が進行している郊外ニュータウンを対象に,従来の住宅のリフォームや建て替えのみでなく,中古住宅の創造的なリノベーション,シェアハウスやカフェ等へのコンバージョン,地域内の空き店舗やアパートの活用等を通して,地域空間の機能,さらにはコミュニティの複合化を果たすことにより,その持続性を高める方策を考察することを目的としている。 研究開始当初は,アメリカのシアトル市およびカリフォルニア州の郊外エリアにて,サードプレイスとしてのカフェの実態,郊外エリアにおけるタウンマネジメントの方策と効果,住宅地のブランド価値の維持等に関するフィールドワークを行った。また,国内においても,福岡・佐賀や全国の調査対象地にて,戸建て住宅の創造的なリノベーションやカフェ等へのコンバージョン事例を取材し,その担い手の特徴や空間ストック流通の新しい仕組み等に関する知見を得た。 平成28年度には,福岡県宗像市の日の里ニュータウンを研究の主要な対象と定め,エリア内での中古住宅のリノベーションと若い入居者のライフスタイルに関する調査を行った。その結果,開発から時間が経過した,いわゆるオールドタウンであるが,近年は単に安価な中古住宅ではなく,眺望,趣味を楽しむことのできる広い敷地,ニュータウンの縁で林と隣接する自然豊かな環境等のその場所固有の魅力を読み取り,中古住宅をリノベーションしながらその住宅と地域の空間ストックの魅力を上手く継承している住み手が現れ始めていることが,注目に値する傾向として見出すことができた。 さらに日の里ニュータウンで,空き店舗のコミュニティ拠点へのリノベーションプロジェクトに継続して関わることで,高齢化している第一世代と現在の子どもたちやその親世代との交流の場が有効に機能していることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,当初は複数の住宅地を対象とし,そこでの空間実測や居住者・担い手へのインタビューを通して現在の状況を把握する実態調査を実施し,住宅地の今後のポテンシャルを考察する予定であった。しかし,そのようなフィールドワークのなかで出会った日の里ニュータウンの担い手と強い協力関係を築くこととなったため,協働で活動を行いながら研究を行うアクションリサーチへとスムーズに移行することができた。その結果,より深く実態を理解することができた上,協働のアクションを行うことにより,地元コミュニティや不動産マーケットのニーズについても試行しながら把握する機会に恵まれた。 さらに,ニュータウンの第一世代を中心とした地元コミュニティ団体,親となった第2世代を中心とした小学校オヤジの会,空き店舗再生の拠点づくり活動を行っているクリエイティブな担い手などの多様な地域の主体と共に新たなアクションを起こしていく機運を高めることができた。また,自治体やニュータウン内に団地を持つUR,市内の工務店や不動産会社,市外の大手ハウスメーカーやリノベーションデザイナーとも関心を共有し,共同のプロジェクト実施に向けて現在は検討を進めている。 こうした多様な主体と協働で行う日の里ニュータウンでの空間ストック再生のアクションリサーチを実施することにより,実際のマーケットを狙ったビジネスモデルとなりうる再生のあり方を検討していくことができる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成29年度には,日の里ニュータウンをフィールドに,複数のプロジェクトを主導的に実施していくことを計画している。リノベーションの専門家や地域の若い担い手とともに空間ストック再生のプロジェクトチームを立ち上げ,事業を行う。 まず,空き店舗を活用し,地域内外でメンバーを募ってDIYでリノベーションを行うことにより,居住者のサードプレイスとなる居場所づくりとその運営を行う。また,DIYワークショップ等を通して,ニュータウンの居住者と,今後に移り住むことを検討している家族等との交流の場とすることで,ライフスタイルの魅力発信のベースとしての役割も持たせる。 次に,地域内外の事業者(リノベーションデザイナー,ハウスメーカー,工務店,不動産会社,メディア等)と協同しながら,日の里の中古住宅のリノベーションを促進するための活動を行う。特に,市外のライフスタイルにこだわりのある若い世代向けのリノベーションのスクールを実施し,そのなかで,実際のプロジェクトの実現を目指す。さらに,こうした新しいリノベーションをプロデュースしながら,古いニュータウンの再ブランディングを目指す。 このような事業をコミュニティ,公共,民間事業者とともに実施することを通して,郊外ニュータウンの空間ストックの再生のポテンシャル,機能やコミュニティの複合の意義等について,考察を行っていく。 ただし,当研究は本年度が最終年度であるが,日の里のプロジェクト自体は初年度であり,少なくともこれから3年を最初のフェーズとして実施していく。そのため,今年度末の考察はあくまで初動のアクションを通した得られた知見に限られるため,次年度以降は成果発表の機会を改めて探っていくことが必要となる。
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