既存建築ストックの活用と地域公共施設の再配置は,我が国にとって喫緊の課題である.この課題の解決には立地条件を考慮した地域公共建築物の価値の簡便な評価手法が必要とされるのに対して,立地を詳細に組み込んだ評価手法の研究は少ない.そこで研究代表者は2013年度に,小中学校等の利用率が距離減衰しない施設での平均距離を指標とした手法を提案した.これを進化させ本研究課題では,コミュニティセンター等の利用率が距離減衰する施設に着目し,理論的,実証的分析を行った. 理論的分析として概ね2017年度までに下記を行った.第一に,利用率が距離減衰する施設での評価指標として期待利用者数と消費者余剰を市街地の広がりを持つ仮想双子都市において比較し,市街地規模の影響を明らかにした.第二に,2013年度と同じ仮想都市において,上記2指標に最寄り施設までの平均距離を加えた3指標によって,地域公共建築物の価値の評価を試行した.第三に,評価の基礎となるアクセシビリティと施設配置の関係を探るため,多段階の交通手段の配置を最適化するモデルを開発した.第四に,評価の基礎となる最適な地域公共施設配置の理論を深めるため,最適な二段階の地域公共施設配置と人口密度分布の組み合わせを明らかにした. 実証的分析として下記を行った.第一に,多摩ニュータウンの諏訪,永山地区において,8校の小学校校舎にコミュニティセンターを設置することを想定し,地域公共建築物の価値について,上記の3指標による評価を行った(2018年度).第二に,指標の基礎となるアクセシビリティの定量化のため,最近多用されているスマートフォンによるナビゲーションシステムと,従来からの地図とが地域公共施設へ到達する際にもたらす不安感の違いを分析した(2018年度).第三に,距離減衰を前提とした地域施設利用ポテンシャルを館山市で可視化した(2017年度).
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