研究課題/領域番号 |
15K06379
|
研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
中村 仁 芝浦工業大学, システム理工学部, 教授 (90295684)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 開発権移転 / 都市構造集約 / 水害リスク / 気候変動適応 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、大都市近郊の河川流域を対象として、気候変動に適応した水害リスク低減と集約型都市構造への再編という2 つの重要な地域課題に同時に対応する観点から、「開発権移転」(TDR: Transfer of Development Rights)の仕組みを活用して、水害リスクの高い地域から、中心市街地など活性化が求められる地域への居住者移転を促進するための具体方策を検討し、その方策を制度化し、実効性を高めるための課題を明らかにすることである。 平成28年度は、前年度の文献調査の成果をふまえて、米国のTDRの事例に関する現地調査を実施した。事例調査の対象として、TDR取引実績が豊富なニュージャージー州のPineland地域、TDR取引実績のないロードアイランド州のNorth Kingstownを選定して、2016年9月に現地視察、関係者ヒアリングを実施した。現地調査の成果をもとに、さらに詳細な文献調査、統計データ分析を行うことで、TDRが成立する要因、TDR取引数が増加する要因を分析した。 また、前年度の成果をふまえて、日本での事例調査エリア(東京近郊の柳瀬川と新河岸川の合流地点エリア)を対象に、異なる再現期間の降雨を詳細に設定した氾濫シミュレーションを実施して、建築物や産業施設などの洪水被害額の「年間被害額期待値」を推定した。この成果によって、今後、TDRの導入可能性を費用対効果の観点から検討することが可能となった。 2016年10月には、フランスのリヨンで開催された国際会議(3rd European Conference on Flood Risk Management)において、洪水時の近隣避難の可能性と課題に関する研究成果を発表すると同時に、本研究に関連する情報を収集した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に米国で現地調査を実施することによって、既往研究では明示されていない「開発権移転(TDR)」制度の詳細、TDR取引実績に影響を及ぼす要因などを分析することができた。また、日本での事例調査エリアにおいて、水害リスクを「年間被害額期待値」として推定することができたことで、今後、TDRの導入可能性を費用対効果の観点から検討を進めることが可能となった。 以上のことから、本研究の目的を達成するうえで重要な成果を得ることができており、「おおむね順調に進展している」と評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度は本研究の最終年度となる。海外での現地調査、国際会議参加による情報収集を行うとともに、日本での事例調査エリアでの分析をもとに「開発権移転(TDR)」の導入可能性に関する検討を進める。 以上の検討をもとに、最終的な研究成果として、将来的な気候変動の影響も考慮しつつ、水害リスクの高い地域から水害リスクが低く活性化が求められる地域への居住者移転を促進するための具体方策を検討し、その方策の実効性を高めるための課題を明らかにする。 なお、気候変動に適応した水害リスク低減と集約型都市構造の実現(氾濫原の保全など)は、日本のみならず、発展途上国においても重要な課題である。TDRの活用は、発展途上国においても有効と考えられることから、海外での現地調査は発展途上国も対象として実施し、本研究の成果を国際的な視野をもった内容に発展させる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度、28年度において、図書・資料購入費、海外旅費が当初の見込みより少ない金額となり、また、データ・資料整理謝金を支出しないで研究を実施することができたことが理由である。
|
次年度使用額の使用計画 |
最終年度の平成29年度は、図書・資料購入費、海外旅費、データ・資料整理謝金が当初の計画より増加する見込みであり、その経費を補完するために使用する。
|