本研究の目的は、大都市近郊の河川流域を対象として、気候変動に適応した水害リスク低減と集約型都市構造への再編という2 つの重要な地域課題に同時に対応する観点から、「開発権移転」(TDR: Transfer of Development Rights)の仕組みを活用して、水害リスクの高い地域から、中心市街地など活性化が求められる地域への居住者移転を促進するための具体方策を検討し、その方策を制度化し、実効性を高めるための課題を明らかにすることである。 最終年度となる平成29年度は、前年度までの調査をふまえ、さらに詳細な文献調査を行うことで、TDRの概念、実態、課題を整理し、その成果を学術論文として投稿した。 日本での事例調査エリア(東京近郊の柳瀬川と新河岸川の合流地点エリア)では、前年度までの氾濫シミュレーション調査で洪水被害額に含めていなかった家庭用品やその他間接費用も考慮して、「年間被害額期待値」を再度推定した。また、床上浸水による避難者の発生、荒川本流の氾濫による被害も考察の対象とした。さらに、本調査エリアを対象に、洪水リスクが高い市街地を縮退し、洪水リスクが低い市街地に都市構造を集約化する手法を、事業採算性を考慮したモデルスタディを実施して検討した。その結果、関連する法制度の整備、関係者の合意形成などの一定の条件のもとで、TDRの仕組みを用いた事業が成立することがわかった。ただし、都市構造集約エリアにおいて、周辺の市街地と環境が大きく異なる高容積型の開発にならない方法を検討することが課題として明確になった。 TDRの活用は発展途上国においても有効と考えられることから、アフリカのベナン共和国コトヌー都市圏において現地調査を実施した。調査の結果、土地取引や土地利用計画制度の整備が整えば、湿地帯保全による水害リスク低減策として、TDR活用の可能性があることが明確になった。
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