本研究は、日本の近代建築におけるセセッション(分離派)の受容と普及の実態について、言説や理論から建築作品まで網羅的に調査研究を行い、その特質を明らかにするものである。1910年代から30年代までの日本の建築系雑誌や写真集には、セセッション風のデザインの建築が多数掲載されている。セセッション風にデザインされた建物も国内各地で見られる。セセッションは全国的な現象であったが、従来、日本近代建築におけるセセッションの影響は、実態が十分明らかではなかった。 本年度は、国内の文献調査と現地調査を行った。文献調査については、武田五一に焦点を当てて、武田のセセッションを巡る言説や作品についての文献収集を行った。その成果は、分離派100年研究会で発表した。現地調査については、国外と国内で調査を行った。国外はドイツを中心として、ミュンヘン、ハンブルク、ベルリンなどでセセッション(ドイツではユーゲントシュティールと称する)の作品の分布やデザインの特徴について調査を行った。その結果、都市ごとに作品の傾向にある程度違いがあること、また1920年代の都市計画と結びついて集合住宅にセセッションのデザインが採用されていることが明らかとなった。国内では地方都市を中心に現存するセセッション風の建物を訪問し調査を行った。ドイツなどと比べて、都市ごとの違いはあまりなく、部分的な装飾様式として、1910年代から20年代にかけて、大都市から地方都市まで広くセセッションが普及していた様子を確認した。
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