研究課題/領域番号 |
15K06399
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
千代 章一郎 広島大学, 工学研究院, 准教授 (30303853)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ル・コルビュジエ / シャルロット・ペリアン / アイリーン・グレイ / 装備 / 壁 / 日本 / 茶の本 / 民藝 |
研究実績の概要 |
ル・コルビュジエの「装備」(室内装飾)に関する概念について、関連する書簡や書物を網羅的に精査してデータベース化することによって、前年度よりさらに科学的に「装備」の変遷とその変化の理由について考察した。分析の結果、ル・コルビュジエの「装備」は20世紀初頭のドイツ工作連盟の生産手法とオーギュスト・ペレから影響を受けた「家具」の概念に由来しつつ、独自の「棚」の概念として成立し、とりわけ第二次世界大戦後は、さらに自然環境の制御装置にまで敷衍されていく。 ル・コルビュジエの「棚」については、さらに制作手法として分析を進めた。ル・コルビュジエの「棚」の制作には壁への組み込み、壁への寄せ置き、壁からの独立設置という三手法が認められる。そこで「棚」について、ル・コルビュジエと協働していたシャルロット・ペリアンの手法と比較検討することによって、両者の独自性を考察した。結果として、ル・コルビュジエは壁との一体化を志向し、ペリアンは壁から解放された棚というよりも、臨機応変に様々な設置方法を検討していることが明らかとなった。 さらに、ペリアンについてはすべての論文を精査して、ル・コルビュジエの「装備」の理論との比較検討を行い、「壁」に関する両者の差異を明らかにすることができた。 また、ペリアンの全論文から、日本からの影響、とりわけ岡倉天心の『茶の本』や柳宗悦らの「民藝」との関連性が、ペリアン独自の「装備」概念と関連することが指摘できた。 アイリーン・グレイについては、最初の建築作品E-1027(1929)について、言説分析を進め、やはり建築学的な用語(「壁」「窓」)について、これまでの建築史における一般的概念とは異なる使用方をしていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度においては、研究計画通り、海外出張における円滑な資料収集と意見交換が実施できた。とくにフランスにおけるル・コルビュジエ財団での学芸員や研究者との情報交換を通して、他では得られない貴重な資料の収集と先端的な学術研究の動向を把握することができた。 またシャルロット・ペリアン財団において、進行中のペリアン資料アーカイヴを通して、本研究課題における「日本」というテーマに関する新しい資料の発見をすることができた。 日本においても、学会発表等を通じて、本課題内容の一部を発表し、そこでの議論を通して、内容に関する更なる考察を深めると同時に、研究遂行方法の再検討を継続的に実施することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の研究対象の一部であるル・コルビュジエとシャルロット・ペリアンについては、概ね計画通りに(予想外の新発見を含めて)進捗しているが、アイリーン・グレイに関しては、もとより文書や図面に関する資料が少ないことを含めて分析が手薄になっている。ただし、一次資料はイングランドとアイルランドのミュージアムに保管されていることが判明しているために、とくにこの方面での研究を推し進める必要がある。 また、平成28年度までは本研究課題に関する言説分析は中心であったために、今後はとくに言説と対応する建築作品様式、建築制作過程についての考察を進めていく必要がある。その上で、ル・コルビュジエ、シャルロット・ペリアン、アイリーン・グレイ三者の比較検討を進め、最終的には、フランス近代建築における「装飾芸術」の20世紀的転回という建築史の流れに位置づける作業を実施する。 同時に、これらの成果の発表と討論による課題内容の省察、新規課題の発見が本年度の大きな推進法策である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は概ね当初計画通りの予算を執行したが、初年度における海外調査の中止(テロの影響のため)が影響している。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度において、海外調査を重点的に行うと同時に、当初計画以上の成果発表も予定している。
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