研究課題/領域番号 |
15K06406
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研究機関 | 学習院女子大学 |
研究代表者 |
ウーゴ ミズコ 学習院女子大学, 国際文化交流学部, 准教授 (80470029)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 戦災復興 / 歴史的建造物 / 歴史的環境 / 旧市街 / 再建 / 復元 |
研究実績の概要 |
本年度は、欧州の中でも、とりわけイタリアの戦災都市の復興対策に的をしぼって研究を進めた。空襲時期と戦争の歴史的な展開を戦災都市の選択基準とし、スイスやオーストリアとの国境の近い北イタリアの都市(ミラノやブレーシャ)と、南イタリアの港町(パレルモやナポリ)について調査を行った。その結果、次のことが明らかになった。第一に、イタリア全土の戦災復興の方針が早い段階で出されたものの、それぞれの都市の破壊状況や自治体の方針により、実際の戦災復興計画の実施には相違があった。第二に、都市の戦災復興計画に際して、歴史的環境の保全を盛り込むことの必要性が直ちに指摘され、歴史的建造物が集中する旧市街では都市保全計画を基盤とする戦災復興計画がねられたものの、実際には個々の歴史的建造物の保存修理事業が独立して進められたことが分かった。歴史的建造物や歴史的環境における新旧の関係性については、1920年代に文化財保護局職員として活動したのちにナポリ大学建築学部教授となったロベルト・パーネ(R. Pane、1897-1987)の思想に関する資料(ナポリ大学建築学部図書館蔵)を調査した。その結果、カンパーニャ州とナポリにおける具体策、復元的保存修理への疑義が明らかになった。のちにヴェニス憲章へと繋がるパーネの思想の影響力に関しては、今後さらに深める必要がある。カターニャ大学主催の国際会議に招待された際には、イタリアのみならず、スペイン、シリア、キプロスの研究者と議論ができ、欧州における戦災状況とその対策の全体像についてまだまだ整理しきれていないところがあることも分かった。近年戦災にあった都市復興へのフィードバックも見据え、さらなる比較研究を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
太平洋戦争関連で戦災にあった歴史的建造物と歴史的都市環境の保存対策を中心に調査研究を進めることができている。日本国内の状況を把握することから出発し、徐々に海外の状況と比較検討しながら、研究を進めている。特に、イタリアとの比較を行うことで、戦災復興の方針や方法について理解することができている。昨年度は、比較対象であるイタリアに長期滞在する機会を得たことにより、多くの資料を収集し、同じテーマを研究している専門家とも交流する機会を得た。そのため、順調に研究を進展させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにポーランドとイタリアにおける調査をおこなってきたが、今後はこれまで収集した資料の分析をより深く進める予定である。まずは、当時の雑誌・新聞、行政の資料を中心に、当初想定されていた対策に関する一次資料をさらに充実させる予定である。さらに、昨年度より築き上げた専門家との学術交流をさらに進める予定である。具体的には、昨年度招待された国際会議の内容の出版をイタリアの出版社で予定している。次に、目下調査中である都市復興計画と指定文化財の関連性をあきらかにし、現在の都市の在り方への影響を明確したい。そのため、戦災にあった国外(オランダ、フランス)の事例を増やし、これまで調べた海外の事例と合わせて日本国内の事例と比較する予定である。最終的には、既存の歴史的環境への介入の考え方と実施状況の共通点と相違点を明確にすることによって、当初の状況を把握すること、さらに現代にも有効な戦災復興基準への足掛かりをつかむことができると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は、大学より長期研修の期間を頂き、イタリアを研究拠点としたことにより、日本と欧州を往復する海外旅費を大幅に節約することができたためである。これにより次年度には、海外事例に関する情報収集調査と海外専門家との意見交換の機会をさらに充実させることが可能となる。最終年度に予定されている海外調査に加え、昨年度までにとりまとめた成果を再確認するための補足調査をし、計画通りの成果にまとめあげる予定である。
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