研究実績の概要 |
本年度は二つの方法を並行し進めた。戦災にあった都市とその旧市街の復興政策の調査、関連の資料収集と分析である。 都市の調査としては、海外の事例を増強した。その目的は、戦災都市における戦後の都市計画の方針を決断するための判断材料の明確化にある。戦災復興が歴史的建造物を中心に発展した計画であったのか、あるいは、戦災を免れた遺構を新都市計画に含めない計画であったのか、に分けて事例を選択した。地域としては欧州の北部地域を中心に調査を行った。オランダとベルギー東部の、主に四つの都市の戦災状況と復興計画の調査を進めた。戦前から保護されていたアントワープ市の旧市街(ベルギー・Antwerp)、ホーフストラテン市(ベルギー・Hoogstraten)、ミデルブルフ市(オランダ・Middelburg)と、商業都市で港湾都市のロッテルダム市(オランダ・Rotterdam)である。調査の結果、歴史環境の戦災復興計画は、政治的、経済的要因以外に、戦前までの歴史環境や歴史的建造物の保護政策の有無、さらにその都市のイメージに大きく影響されることが分かった。例えば、中世から17世紀まで栄えたホーフストラテン市の戦災復興は、その時代の歴史環境の保護、または復元を盛り込んでいる。 次に、戦時中の歴史資料として、キングス・カレッジ・アーカイブセンター(英国・ケンブリッジ市)蔵の戦時中の資料の分析を行った。とりわけ、R.E.バルフール(Ronald Edmond Balfour, 1904-1945)関連資料が重要である。中世史の研究者だったバルフールは、連合軍の陸軍内に設けられた「記念物、芸術、アーカイブズ課」(Monuments, Fine Arts and Archives Section)の一員として働いた。現地調査と合わせて、特に戦時中にバルフールが貢献したホーフストラテン市の都市保全を確認することができた。
|