研究実績の概要 |
セラミックス材料は多結晶体として用いられることが多く,粒界構造に起因した物性発現が注目されている. 粒界に無数存在する自由度を単純化するため,バイクリスタル法などにより傾角をコントロールし粒界を作製する手法が有効である. 対称傾角粒界は,多くの場合構造ユニットと呼ばれる多面体の配列で記述でき,電子顕微鏡法の発達に伴って,正確な原子配位が得られるようになってきた. 粒界には不整合を緩和するため粒界転位が導入され,転位間相互作用により最低エネルギー配位が実現される. 1980年代にSuttonらが提唱したように,粒界構造が2種類の低指数構造ユニットの線形和によって記述できるとき,粒界構造が傾角の関数としてできる限り連続的に変化するためには,転位ユニットが平均的に配置することが必要である. このとき,構造ユニット配列と有理数分布との間に一対一対応が存在する. 前年度までの研究で,有理数分布を記述するファレイ数列を用いることにより,効率的に粒界構造ユニットの配列の予測が可能であることを指摘した. 本研究では,先ず幾何学的考察から傾角に対応する近似有理数を求め,数理的手法により粒界構造ユニットの配列を予測した. この手法を現物質に応用すべく,3種類の異なる物質・方位の対称傾角粒界[(1)酸化マグネシウム<001>バイクリスタル,(2)イットリア安定化ジルコニア<110>バイクリスタル,(3)酸化亜鉛<0001>配向薄膜]に対して構造の予測と観察を行った。収差補正器搭載の原子分解能走査透過電子顕微鏡(STEM)・高角環状暗視野法によって粒界原子構造が明らかになり,構造ユニットの配列という点では観察結果と予測が数十ナノメートルの範囲にわたってよく一致していた. このような数学的手法と原子分解能STEM観察を組み合わせることで,様々な物質の粒界構造の予測に応用することができると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では, 3種類の異なる物質・方位の対称傾角粒界[(1)酸化マグネシウム<001>バイクリスタル,(2)イットリア安定化ジルコニア<110>バイクリスタル,(3)酸化亜鉛<0001>配向薄膜]に対し数学的解析法を導入し, 構造ユニット配列の予測を行った. 原子分解能走査透過電子顕微鏡法により, 予測の正しさが実証された. 一方で, リーマン・カルタン幾何学に基づく応力場分布の定量的予測は, 理論的仮定が強すぎ応用に不向きであることから左程進展させることができなかった. しかしながら, 種々の粒界の構造を効率よく予測できるアルゴリズムを開発した点において, おおむね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
本年度得られた結果を拡張し, 粒界三重点の原子構造への応用を考察する. STEM観察結果において, セラミックス粒界三重点近傍にランダムな原子配列が確認された. この構造は構造ユニットモデルで記述できる可能性があり, 第一原理による予備計算で1次元導電性を付与できる可能性が示された. ランダム構造の系を大きくし, 一見ランダムに見える構造ユニット配列に規則性が見出されるか検討する. また, 粒界近傍における不純物偏析メカニズムについて研究を進める. 複数の傾角粒界の試料を得ており, 第一原理計算を併用し構造ユニットごとの偏析メカニズムを明らかにする.
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