研究課題/領域番号 |
15K06421
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
関谷 隆夫 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60211322)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 光物性 / 二酸化チタン / 酸窒化ジルコニウム / アニオンドーピング / 薄膜 |
研究実績の概要 |
初年度は窒素ドープ遷移金属酸化物試料の作成について重点的に研究を行ってきた。 ゾルゲル法による二酸化チタン薄膜の作成ついては、光学測定のために透過率が高い、充分な膜厚を有する試料作成に取り組んでいる。膜厚を稼ぐためにディップコーティングを繰り返す手法をとっているが、膜厚を大きくすると透明度が低下し、均一ではなくなる傾向があることが判った。透明度を優先するためには、膜厚の目安が200nm程度であることが見出せた。 二酸化チタンの粉末を出発原料とし、粉末を成形したペレットをアンモニア気流中650℃で熱処理することでdark blueに呈色した粉末を得た。これは、アンモニアによる還元作用で、酸素欠陥が導入されたことに起因する。さらに空気中400℃で熱処理し、2.9eV付近に吸収帯を持つyellowに呈色することで、窒素がドープされていることを確認した。この粉末を酸素中で加熱処理することで、酸素欠陥の少ないcolorlessの状態となるが、この際、用いた粉末の粒度が小さいときにrutile相への転移が比較的低温から生じることが明らかとなった。相転移温度の低下は水素の存在下でしばしば観測できる。このcolorlessの粉末に、水素による還元処理、Tiによる還元処理を施した後に酸素雰囲気下で熱処理することで、2.9eV付近の吸収帯が再度現れ、ドープした窒素が粉末中に留まること、還元時に水素が必要でないことが明らかとなった。つまり、窒素ドープした二酸化チタンに酸化還元処理を施すことで、窒素の電子状態を変化させ、2.9eVの吸収帯の生成消滅を制御することが出来たが、その変化に水素が関与していないことが明確となった。 既存のマグネトロンスパッタリング装置を用いた酸窒化ジルコニウム薄膜の作成を石英ガラス基板上に行った。ヒーター温度を500℃以上とすることで酸窒化ジルコニウムのX線回折線が現れた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね研究は順調であると考えている。初年度は様々な方法による窒素ドーピング試料の作成を行い、以下に示すような方法によるドープ試料を得ることに成功している。窒素ドーピング二酸化チタンの粉末を用いた熱処理条件の模索は概ね目処がついたといえる。単結晶の水素以外の還元方法として、Tiを用いた方法を試み、水素還元によるものとの差が明確に出来ると思われる。単結晶育成には既に成功しているので、入手でき次第、ドーピングを施し、物性測定に進む。ゾルゲル法では、光学的に均一で透過率の高い薄膜の作成に目処が立ち、アニオンドープの準備が出来たと考えられる。ゾルゲル法による二酸化チタン薄膜作成では、最終焼成温度が低くなるため、ドープした窒素・イオウの熱分解・脱離が抑制され、比較的多量のドーピングが可能になる可能性があり、期待が持たれる。ゾル形成中にアニオン源を添加する手法や、粉末や単結晶と同様に薄膜作成後にアンモニア気流中での熱処理によるドーピングなどを検討する準備が出来た。また、既存のマグネトロンスパッタリング装置を用いた酸窒化ジルコニウム薄膜を石英ガラス基板上に作成することに成功し、窒化ジルコニウムから、酸化ジルコニウムまで、ガスの流量調節のみで幅広く窒素量を変化させた試料を入手できることが明らかになったことで、非常にこの研究を大きく進展させる可能性が拡がったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
概ね当初の計画に沿って研究を進める方針である。試料作成については、期待の大きなスパッタリング装置の改良を中心に行い、酸窒化ジルコニウム系薄膜の作成を行ってゆく。二酸化チタン系のゾルゲル、粉末による窒素以外のアニオンドープに関しては、二酸化硫黄を用いた気流中の熱処理、あるいは、粉末硫黄を用いた直接混合加熱など、硫黄を中心としたドーピングを試みる。 二酸化チタンの窒素ドープ量の評価、ESRシグナル強度とドープ量の関係などに興味が持たれる。単結晶では充分な大きさの試料が得られず、XPSの測定においても精度の良い実験結果が得られるか不安があるが、ゾルゲル法の薄膜試料では充分な結果が得られると期待している。しかし、アニオンの電子状態の解明のためには、やはり単結晶試料を用いた測定は欠かせないので、高濃度ドーピングなど試料の作成が大きな鍵となることは、間違いない。窒素ドープした試料による不純物の電子状態の変化を酸素欠陥導入の前後で、光吸収、ESRやXPSなどの測定により明らかにする必要がある。酸素欠陥制御の手法としては、酸素雰囲気下、水素気流中での熱処理のほか、Tiとの同時封入による熱処理など多彩な手法との組み合わせた試料の物性測定は興味深い。 酸窒化ジルコニウム系薄膜では、窒素のドープ量の増加に伴い、光吸収の測定によりバンドギャップが狭くなること、X線回折により結晶相の同定が可能であることが判ってきた。試料を系統的に作成し、その光学的な特性を光吸収、発光スペクトル測定で明らかにしたい。光学測定により、窒素の電子状態を明確に出来れば、酸素欠陥の導入による変化の有無を明らかにしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
二酸化チタン系の試料作成において、ゾルゲル法に用いる装置類、薬品類、ガラス器具類が既存のものを比較的多く流用でき、資金節約ができた。一方で、酸窒化ジルコニウム系の試料作成に用いているスパッタリング装置に不具合があることが判り、その不具合を修正するための方針の模索を行っているが、当該年度内に終了できなかったため、次年度に資金を繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
少額ではあるものの、有効に利用したい。酸窒化ジルコニウム系の試料作成に用いているスパッタリング装置の不具合修正のために繰り越した資金を使用する。
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