窒素ドープ遷移金属酸化物試料の高濃度ドープ試料作成と、物性評価を中心に研究を行った。 窒素のドープ量を増やすために、チタニウムイソプロポキシドとヒドラジンを用いたゾルゲル法による窒素ドープ二酸化チタン粉末を作成した。得られた粉末は単結晶と同様、可視紫外分光から2.9eV付近に吸収帯を持つこと、ESR測定から窒素HFSに起因するシグナルが観測されることを見出した。このESRシグナルのパラメータは単結晶の値にほぼ等しく、酸素雰囲気下、アンモニア気流下での熱処理により、単結晶同様の2.9eVの吸収帯の消滅が確認されたことから、高窒素ドープ粉末においても、窒素の化学的環境が保たれていることが判った。この試料のXPS測定から、黄色を呈するanatase試料中の窒素の原子価は、ほぼ表面吸着窒素に等しく、酸化、還元熱処理により原子価が変動することを見出した。吸着窒素の原子価がゼロであると考えると、試料を酸化して得られる正の原子価を持つ窒素の存在は、窒素原子単独の電子状態の変化では説明し難く、NHや、NOのような複数原子の欠陥が要因であるモデルの妥当性を示していることが明らかとなった。 一方、酸窒化ジルコニウム薄膜を石英ガラス基板上に反応性スパッタリングで作成した。基板ヒーター温度900℃で作成した薄膜のX線回折を詳細に検討すると、酸素流量の増加に伴い、ZrNからZr2ON2、Zr8O7N4、ZrO2のように主要結晶相が変化すること、回折装置のスリット幅に依存していること、表面近傍に比べ膜の内部は、より酸素欠陥を多く含む結晶相の割合が高いことが判った。XPS測定では、Zrの3dピークのシフトも同様に観測され、Zr周囲の酸素/窒素比を反映しているものと考えている。酸素流量増加に伴う光学吸収端のブルーシフトから窒素ドープの影響はバンドギャップ直下に現れることが判った。
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