研究課題
鉄鋼材料の水素脆化の現象が140年前に発見されたが、脆化のメカニズムはまだ明らかになっていない。鉄鋼材料の水素脆化を防ぐために、様々な方法が開発された。今年度に鉄中に水素による引張特性の劣化に及ぼすヘリウムの影響を調べた。転位を導入した鉄に、原子の弾き出しが起きない低エネルギーのヘリウムと水素を注入した。引張試験機により鉄試料の延性を調べ、水素を注入した試料の延性は悪くなったのに対して、ヘリウムを注入すると、鉄の延性が良くなった。引張試験後の試料の微細組織を調べた結果、ヘリウムを注入することによって、引張変形中に形成する微細な亀裂の成長が抑制されることが分かった。この結果は、ヘリウム原子が亀裂の成長に必要な原子空孔の拡散を遅らせたことを示唆している。結果として、試料の延性が良くなった。また、鉄に原子の弾き出しが起こる高エネルギーヘリウムを鉄に照射したところ、鉄の表面に水素をトラップする原子空孔が形成し、水素拡散が抑制され、水素脆化が改善する。これからの低炭素社会においては、水素がクリーンエネルギーとしてますます注目されている。従って、水素をいかに安全かつ安く貯蔵または輸送することは非常に重要なことである。本研究で得られた知見を用いて水素を安全に使える材料の開発に貢献する。この成果を国際雑誌(Scientific Reports 7 (2017) 16927)に発表した。その他、鉄と同じ構造を持つ鉄合金とタングステン合金における高エネルギー粒子照射による損傷組織の発達過程、または欠陥と水素やヘリウムとの相互作用も調べた。鉄に比べ、タングステンの方が原子空孔と水素やヘリウムの結合は強いが、添加元素を入れると、水素やヘリウムの蓄積が抑制される。これらの結果から鉄のみならず、他の材料においても微量な添加元素を入れると、水素による材料の力学特性の劣化を低減することを示唆している。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 8件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
Nuclear Inst. and Methods in Physics Research B
巻: 415 ページ: 82-88
https://doi.org/10.1016/j.nimb.2017.11.013
Journal of Nuclear Materials
巻: 499 ページ: 464-470
https://doi.org/10.1016/j.jnucmat.2017.11.002
巻: 501 ページ: 181-188
https://doi.org/10.1016/j.jnucmat.2018.01.019
International Journal of Refractory Metals & Hard Materials
巻: 72 ページ: 373-379
https://doi.org/10.1016/j.ijrmhm.2018.01.011
Fusion Engineering and Design
巻: 129 ページ: 120-129
https://doi.org/10.1016/j.fusengdes.2018.02.085
巻: 505 ページ: 69-72
https://doi.org/10.1016/j.jnucmat.2018.03.048
Scientific Reports
巻: 7 ページ: 16927
http://doi.org/10.1038/s41598-017-17263-8
巻: 496 ページ: 227-233
https://doi.org/10.1016/j.jnucmat.2017.09.033
Radiation Effects & Defects in Solids
巻: 172 ページ: 305-312
https://doi.org/10.1080/10420150.2017.1313842
巻: 490 ページ: 272-278
http://dx.doi.org/10.1016/j.jnucmat.2017.04.042
巻: 495 ページ: 244-248
http://dx.doi.org/10.1016/j.jnucmat.2017.08.027
巻: 496 ページ: 9-17
http://dx.doi.org/10.1016/j.jnucmat.2017.09.002
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/archives/9903