これまでに、六方晶(hcp)金属である純マグネシウム、純亜鉛および純チタン単結晶に対して、球圧子圧入試験を行い、その圧痕変形挙動は結晶方位に大きく依存することを明らかにしてきた。本年度は、その圧痕の形成過程について分子動力学法(MD法)を用いて原子レベルでの解析を行った。約50a×50a×30a(a:モデル結晶の格子定数)で約 120、000 個の原子を含み、結晶表面が(0001)、(11-20)および(10-10)である3つの hcp構造を持つモデル結晶を準備した。この結晶に半径 25a の球状圧子を押し込む過程のシミュレーションを行った。モデル結晶の温度は293Kとし、Lennard-Jones型ポテンシャルを用いた。 (0001)では、マグネシウム単結晶と同様の円形の圧痕が形成された。圧痕直下では、異なるバーガースベクトルを有する6つの転位ループが底面上に形成した。押し込み量の増加と共に、その転位ループは広がるが、さらに c+a 転位が下方に張り出し、その下の底面において新たな転位ループが発生した。圧痕深さと圧痕にかかる荷重の関係を 求めると、押し込み試験における Pop-inに相当する変化が認められた。すなわち、(0001)においては、底面転位と c+a 転位の活動により圧痕が形成され、転位ループの発生が Pop-in現象を引き起こすと考えられる。(11-20)では、圧痕周囲に底面転位と柱面転位の活動が観察された。(10-10)では、柱面すべりの活動が少なく、{10-12} 双晶の発生がみられた。圧痕は楕円形状となり、マグネ シウム単結晶の場合と同様な結果が得られた。したがって、マグネシウム単結晶で楕円形の圧痕が形成されるのは、底面すべりが優先的に生じ、柱面すべりが起こりにくいためということがわかった。
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