研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、希土類金属を含まない銅酸化物において、高い超伝導転移温度Tcを有する超伝導体を創製することである。今年度は以下の2つのテーマの研究を行った。 (1) (Y,Ca)Ba2Cu3O6Hxの合成:最終的には希土類を含まない銅酸化物に水素を導入して高Tc化を図るため、まず、合成しやすい(Y,Ca)Ba2Cu3O6への水素導入を試み、水素導入の基礎データの収集を行った。(Y,Ca)Ba2Cu3O6は固相反応法で合成した。これに触媒として白金粉末を添加することにより100℃という低温で水素を導入させることに成功した。しかし、超伝導転移は観測できなかった。粉末X線回折像において,水素導入後,時間の経過とともにc軸方向の結晶構造の周期性が失われていくことを見出した。これは室温でも水素が拡散し、酸素とサイト置換しているためと考えられる。このため伝導面のCu-Oネットワークが乱れて超伝導が出現しなかったと考えられる。水素導入後は液体窒素中で試料を保存する必要があることが分かった。 (2) 希土類を含まない銅酸化物(Sr,Ba)2CuO2Hxの合成のための母体試料Sr2-xBaxCuO3の合成:原料にSrO, BaO2, CuOを用いた場合には、x(Ba)≦1.0までしか単相試料は得られなかった。そこで、原料をSrCO3, BaCO3, CuOに代えてAr気流中,800℃という低温で仮焼した後、酸素気流中930℃で本焼することによって、1.0<x(Ba)≦2.0で単相試料が得られた。Baの固溶限が拡大した理由は、仮焼を800℃という低温で行うことによってSr2-xBaxCuO2CO3という安定な物質を前駆体として作製した点にある。
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