研究課題/領域番号 |
15K06435
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
塩田 忠 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (40343165)
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研究分担者 |
篠崎 和夫 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (00196388)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 抵抗スイッチング / 酸化物薄膜 / 量子化伝導 |
研究実績の概要 |
本研究は、再現性良く安定な量子化伝導を示す抵抗スイッチングメモリ用酸化物薄膜を作製し、その量子化伝導現象の解明と多値化メモリへの応用を目的としている。 本年度は、再現性良く安定な伝導度の量子化を示す抵抗スイッチング酸化物薄膜の作製を目指し、特に薄膜の結晶性と微構造の影響について検討した。抵抗スイッチングは、酸化物薄膜中の導電性の金属または酸素空孔フィラメントが形成・破断することにより生じるとされている。検討の結果、金属フィラメント型抵抗スイッチングを示す素子としてCuまたはAg上部電電/Ta2O5/Pt下部電極を、酸素空孔フィラメント型抵抗スイッチングを示す素子としてAu上部電極/8mol%Y2O3添加ZrO2(YSZ)/n型Si基板兼下部電極を選択した。 CuまたはAg/Ta2O5/Ptにおいて、スパッタリング法により作製したアモルファスTa2O5薄膜を700度以上で熱処理すると結晶化し、抵抗スイッチングが生じなかった。一方、600度以下の場合は抵抗スイッチングが観測され、特に、600度で熱処理したTa2O5薄膜では、量子化伝導の観測割合が最も高くなった。Au/YSZ/n型Siでは、パルスレーザー堆積法により作製したアモルファス、多結晶、エピタキシャルYSZ薄膜の全てにおいて抵抗スイッチングが生じ、その中でもエピタキシャル薄膜が最も良好な繰返し性を示した。また、エピタキシャル薄膜では、量子化伝導の発現が示唆される伝導度ヒストグラムを得た。 以上のように、Ta2O5およびYSZ薄膜の結晶性と微構造が抵抗スイッチング特性ならびに量子化伝導の発現に及ぼす影響を検討し、良好な特性を示すTa2O5およびYSZ薄膜の作製条件を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画は、(1)安定な量子化伝導を示す抵抗スイッチングメモリ用酸化物薄膜の作製と(2)極低温微分伝導度計測装置の構築、を検討することであった。本年度の研究成果として、金属フィラメント型および酸素空孔フィラメント型抵抗スイッチング酸化物薄膜の作製プロセス条件を検討し、量子化伝導を示す酸化物薄膜を作製することができたため、(1)の課題は達成されたと考えられる。また、(2)については既存の測定装置を用いて微分伝導度計測装置の構築を検討し、現在、最終的な図面を検討中であり、H27年度中にほぼ達成されたと考えている。したがって、本研究は概ね順調に推移していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の推進方策としては、当初の研究計画通りに研究を遂行する。H28年度には、H27年度に検討した抵抗スイッチング酸化物薄膜における伝導度の量子化伝導現象の解明を目指し、統計解析や微分伝導度計測法などを適用して解析を進める。さらに、H27年度に検討したTa2O5やYSZ以外に、シリコンテクノロジーに最も適合するSiOx、YSZと同様の酸化物イオン伝導体であるガドリニア添加セリア(GDC)等のデバイス化に適合する酸化物薄膜について、その作製方法、抵抗スイッチング特性ならびに量子化伝導の発現を検討し、多値化抵抗スイッチングメモリの実現を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度では、アモルファスTa2O5薄膜の微構造と量子化伝導の発現の相関について一定の成果が得られたが、その相関を完全に理解し最終的なデバイス作製に生かすためには、微構造の更に詳細な評価が必要であると考え、本年度ソースメータが特別キャンペーンにより当初の予定より安く購入できた分などを次年度に繰り越し、次年度においてより詳細な微構造評価を行うことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度から繰り越した研究費は、主に薄膜の微構造のより詳細な評価のために使用する。当初のH28年度計上研究費については、当初の使用計画に従って使用する予定である。すなわち、研究計画に沿った実験に必要な実験消耗品、基板、原料粉などの消耗品購入費、研究成果報告のための国際学会および国内学会参加費と出張費、として主に使用する計画である。
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