研究課題
多結晶ダイヤモンドは,単結晶ダイヤモンドより高い硬度を持ち、劈開しにくい性質を持つ。我々は中性子照射した高配向性熱分解黒鉛(HOPG)に高速の飛翔体を衝突衝撃圧縮の方法によって,アモルファスダイヤモンドが生成されることを発見している。アモルファスダイヤモンドとは,多結晶ダイヤモンドの結晶のサイズを究極まで小さくしたものであり,その生成は中性子照射によって生成された欠陥が関係していると考えられている。一方,一瞬で高圧高温にする方法である衝撃圧縮の方法に比べて,高温高圧の状態を長く保つ静水圧条件下での実験では,試料が長時間高温に晒されるために照射欠陥が熱的影響を受けて衝撃圧縮とは異なる現象が現れる可能性がある。今回,マルチアンビル装置を用いて1.4×1024n/m2の照射量まで中性子照射されたHOPGに対して,2300℃/15GPaおよび1500℃/15GPaの高圧高温実験を行った。回収された試料は,X線回折や透過型電子顕微鏡,ラマン分光法,X線吸収端近傍構造観察によって分析された。2300℃/15GPaの条件では,これまで未照射HOPGから層状のダイヤモンドの生成が見いだされているが,中性子照射HOPGからは,多結晶ダイヤモンドが生成されることを見いだした。衝撃圧縮の場合と異なり,今回,多結晶ダイヤモンドが生成されたことは,熱的な影響を受けた照射欠陥が多結晶ダイヤモンドの生成に影響を与えたと考えられる。一方,室温の高圧条件下では,黒鉛からダイヤモンドより硬い可能性がある圧縮黒鉛が生成され,常圧に戻すことによって黒鉛に戻ることが報告されている。今回,中性子照射HOPGの1500℃/15GPaの高温高圧処理の回収試料には圧縮黒鉛が含まれることを見いだした。常圧でも黒鉛に戻らずに安定な圧縮黒鉛が生成されたことは,照射欠陥がその安定化に寄与していると考えられる。
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