現在発熱体として利用されている2珪化モリブデン(MoSi2)に熱電変換素子としての高いゼーベック係数を付与するため珪素(Si)を添加し、高周波マグネトロンスパッタ法によりサファイア基板のc面上に複合薄膜(MoSiX、2.00≦X≦2.60) の成膜・評価を行った。その結果以下の事柄が分かった。薄膜の結晶構造はβ型6方晶(2.00≦X<2.4875)、未知相あるいは未知相と6方晶の混晶 (2.4875≦X≦2.60) が出現する。薄膜を1000℃以上で高真空中で加熱するとα型正方晶に相転移する。抵抗率の温度係数は、フォノンによる散乱過程ではGruneisen-Bloch 理論で説明され、ホッピング伝導過程はMott のvariable range hopping理論で説明できる。β型薄膜のゼーベック係数は未知相と比較して高く約50μV/℃程度でXが増加すると増加し、X=2の場合より最大約1.5大きくなった。ゼーベック係数とホール係数(装置を製作)よりα型は電子と正孔の2種のキャリアが、β型はほぼ正孔のみ、未知相は電子と正孔の2種のキャリアが存在する。X線極点図測定より基板のc面はβ型6方晶薄膜のc面と格子が極めて高いに関わらず(110)面が基板のc面より約0~7°ずれて配向し、他に大きな回折ピークがないことより、(110) 面はエピタキシャルに近い成長をしている。これよりβ型の抵抗率に関する伝導種の伝導路はほぼ(110) 面である。またSiを過剰に添加しても膜の配向性はほとんど変化しない。透過型電子顕微鏡 (TEM) 観察および電子線回折により膜中および膜と基板の界面において微細構造(microstructure)は形成されておらず、過剰なSiは結晶中に固容している。ボールミルメカニカルアロイングによる準安定なβ型を合成するには粒子を破断するのではなく剪断摩擦が必要である。
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