研究課題/領域番号 |
15K06444
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
楠 正暢 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (20282238)
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研究分担者 |
岡井 大祐 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60336831)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アパタイト / 結晶 / 配向制御 / 薄膜 / デバイス |
研究実績の概要 |
クロマトグラフィーチップやバイオセンサ等に対し、超小型化、高感度化、高分解能化、極微量の検体検出、分析時間の短縮などを実現し、高機能な新デバイスを創出することを全体構想とし、アパタイト薄膜の配向制御技術を確立することを目的に研究を行っている。具体的には、「アパタイト膜の結晶が完全にa面配向する成膜法」を新たに開発し、既に開発済みのc面配向アパタイト成膜技術と組み合わせることにより、タンパク質の選択的吸着/分離を電気的な手法で検出可能であることを示すことが最終目的である。このようなタンパク質の選択的吸着/分離は、六方晶の結晶構造を有するアパタイトの電気的異方性によってもたらされるものであり、正に帯電した結晶面(a面)、負に帯電した結晶面(c面)それぞれに、カルボキシル基を持つ酸性タンパクと、アミノ基を持つ塩基性タンパクが選択的に吸着する原理に基づいている。 今年度は、パルスレーザーデポジション法を用いてa面配向アパタイト薄膜の作製方法を検討した。アパタイトの単位格子のa面方向に対し、エピタキシャル成長を促す可能性がある結晶構造を持つ材料を様々な種類準備し、これらに対しアパタイトの結晶成長を試みた。成膜中の雰囲気ガス圧、基板温度、レーザーエネルギーをパラメータとして異なる結晶構造を持つ材料上でそれぞれ成膜条件を絞り込み、特徴ある材料上で一定の条件下でのみa面一軸配向することが確認された。この結果に対し、c面配向の場合も含め、アパタイト結晶の配向メカニズムに関し理論的考察を現在行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、以下のような3年計画を立てた。 初年度: バイオセンサ用途として、完全c面配向のアパタイト薄膜はすでに開発済みであるため、本研究の成功を左右する最も重要な技術である、完全にa面配向したアパタイト薄膜の作製法を確立する。 次年度: 初年度は、結晶学的にX線回折等の手法で配向制御の確認を行うレベルであるが、応用上、aまたはc面アパタイトとしての機能を発揮できることを、化学的・生物学的観点からも証明しなければならないため、酸性/塩基性タンパク質の例として、アルブミン、リゾチーム等に蛍光標識を付け、a, c面アパタイトそれぞれに選択的吸着することを蛍光顕微鏡観察により確認する。 最終年度: 電子デバイスとしての応用が可能であることを示す例として、水晶振動子マイクロバランスセンサ表面にaおよびc面アパタイトを作製し、選択的に吸着するタンパク質が共振周波数のシフトとして電気的に検出されることを示す。 この計画に沿って、初年度に当たる平成27年度は、レーザパルスレーザーデポジション法でa面一軸配向膜を作製することを試み、再現よくそれが可能であることをX線回折で示すことができたため、計画通りに遂行できていると判断される。一方、実験的にはa面配向を実現できたものの、一般的なエピタキシーの考え方のみではその結果を説明できないため、現在、実験結果を説明できる配向メカニズムに関して、妥当なモデルを検討している。これが明らかになった段階で論文として発表することを計画している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに、a面配向アパタイト薄膜の作製が可能であることを実験的に示すことができ、a, c面を作り分ける技術を確立することができた。現在、この理論的な裏づけを行っているため、今年度前半で発表できる段階にする計画である。また、当初計画に従い、a, c面アパタイト薄膜が結晶の異方性を反映した電気的・化学的特性を示し、目的とする酸性/塩基性タンパクの分離を実現できる性能を示すことができるかを実験的に確認することまでを本年度の目的とする。具体的には、酸性/塩基性タンパク質の例として、アルブミン、リゾチーム等に蛍光標識を付けたものを準備し、a, c面アパタイトそれぞれに対し選択的吸着特性を示すか否かを蛍光顕微鏡観察する手法で確認を行う。このような材料学的な性質、特性が確認されたのちは電子デバイスとして応用するための要素技術の開発へと進めることを最終年度の課題とする。比較的構造が簡単な水晶振動子マイクロバランスセンサを用いて、その表面を配向制御したアパタイトで覆うための技術を開発し、これに選択的吸着するタンパク質を電気的に検出することを試みる。このタイプのセンサは、取り扱いは容易であるが、検出部がセンチメートルのスケールを持ち、比較的大型であるため、将来的には薄膜化技術としてのプロセス上のメリットを活かし、オンチップでマイクロメートルスケールのセンサを集積化し、マルチチャネルの高感度小型センサへと展開できるよう、その技術に関しても並行して検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
薄膜の元素分析を行うためのエネルギー分散型X線分光装置に不具合があり、その使用にあたり修理が必要になった。不具合の発生時期の問題から年度内の修理が困難となってしまったため、それに充てるための費用が残額として残った。また、年度内に発表準備を検討していた論文が、理論的な検討の部分で時間がかかり、次年度へ見送らざるを得なくなった。この投稿費用として考えていた額も残額として繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度の残額は、エネルギー分散型X線分光装置の修理と、論文投稿のために必要な経費として使用する予定である。翌年度分申請経費は当初計画を遂行するための経費として使用する。
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