本課題開始後1年目は、アパタイト薄膜の結晶方位を完全なa面とc面の配向面に制御し作り分ける技術を確立することができた。2年目には、初年度得られた配向制御膜を用いて、酸性/塩基性タンパクの選択的吸着を確認する実験を行い、さらには配向制御のメカニズムに関する理論的考察を行った。最終年度となる本年度は、この配向制御膜作製法と結晶成長のモデル化についてまとめ、論文として投稿した。(現在査読中)これと並行して、当初計画に従い配向制御アパタイト膜のセンサ応用を試みた。具体的には、比較的構造が簡単な水晶振動子マイクロバランスセンサ表面に配向制御アパタイト吸着層を形成し、これに選択的吸着するタンパク質を電気的に検出することができるかの実験を行った。本課題の計画段階では予備実験としてアモルファスアパタイトを用いて一定の効果とともに、良好な動作が得られていたが、今回結晶性の配向制御膜を用いた場合には、センサとしての動作が安定せず、タンパク質の分離吸着の確認までに至ることができなかった。その理由について検討した結果、「配向制御アパタイト膜のセラミクスとしての機械的性質が水晶振動子の電極として金のそれと大きく異なるため、アパタイトにクラックが生じ、それが共振の安定動作に影響していること」または「センサを構成する水晶振動子の厚さが数10μmと薄く、アパタイト膜のストレスにより水晶に反りが生じ正常な共振を妨げている」という2つの可能性が浮かび上がった。これらを解決することは、本課題内では困難と判断し、今後の課題として残った。
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