研究課題/領域番号 |
15K06447
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研究機関 | 公益財団法人豊田理化学研究所 |
研究代表者 |
野上 正行 公益財団法人豊田理化学研究所, その他部局等, 研究員 (90198573)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ガラス / 希土類 / 水素 / 価数制御 / 光機能性材料 / 発光材料 |
研究実績の概要 |
ガラスの優れた透明性を活かし希土類イオンや遷移金属イオンをドープしたガラスは光・電子材料として広く利用されている.ドープしたイオンの価数はガラスの作製条件の影響を受けて変化するために,その特性も安定していない.イオンの特性を十分に活かしたガラスを得るにはイオンの価数を精度よく制御する必要があるが、基礎的なことを含めて未だよく分かっていない.本研究の目的は、希土類や遷移金属などガラスにドープしたイオンの存在状態と価数制御のメカニズムを解明し、それに基づいた新しい機能性ガラスを創成することである.27年度は,3あるいは2価状態になりえるEuイオンを対象にし,Na2O-Al2O3-SiO2系ガラスについて安定に存在しえる価数を決め,かつ水素ガスとの反応によるEuイオンの還元反応を調べEuイオンの価数制御をガラス組成との関係で検討することにした. Euイオンは検討したガラス系では全て3価として存在するが,水素ガス中で加熱したとき還元されるものがあり,その反応はガラス組成,なかでもAl/Na比で決定されることを見出した.すなわち,Al/Na<1組成のガラスでは,水素中で加熱してもEuイオンは3価のままで変化することがなかったのに対し,Al/Na>1のガラスにドープされたEuイオンは2価に還元され,その比率はAl量の増加とともに高くなった.還元反応の有無をガラス構造との関係で種々調べたところ,還元反応が起きるガラス中にはOH基が生成していることも分かり,OH基の生成とEuイオンの還元反応との間に高い相関のあることが確かめられた. 以上,Al2O3がEuイオン還元のための必須成分であるという今回の結果は,他の希土類や遷移金属イオンの還元反応にも適応できると思われ,価数制御に基づく機能性ガラスの開発に結びつくと期待できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
27年度の実施計画では,Na2O-Al2O3-SiO2系ガラスを対象にして水素との反応でEuイオンが還元される組成を抽出することと,Euイオンの水素との反応メカニズムの検討に入ることとした.特に水素との反応でEuイオンが還元され2価イオンに変化するガラス組成を見出せるかは本研究課題の最重要点であった. 対象にしたガラス系でEuイオンが還元され,しかもその反応は母材であるガラス組成の影響を受け,Al/Na比が1以上のAl2O3を含有したガラスに限られることを見出した.この発見によってガラス中でのEuイオンの水素との反応メカニズムの検討にも入ることができ,28年度以降の研究計画の進捗に結びつけることができたことによる.
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今後の研究の推進方策 |
EuイオンをドープしたNa2O-Al2O3-SiO2系ガラスにおいて,水素と反応させたときにEuイオンが還元されるガラス組成を特定できた.この結果を基に,ガラス中でのEuイオンの価数をガラス構造との関係で調べ,還元反応メカニズムを解明することを目指す.金属イオンの還元にはそれらイオンのガラス中での結合状態の検討が必要でもあるので,放射光実験や核磁気共鳴実験等による金属イオン周りの結合状態とそれに及ぼすAlイオンの役割についてのデータを収集し,ガラス構造についての考察を行う.またEuイオン以外の希土類イオンや遷移金属イオンについても検討を開始し,金属イオンの価数制御の可能性についてのデータを収集する.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況から,今年度に試料の蛍光スペクトルを測定することが望ましいと考え,そのためのランプ購入予算を学会出張旅費からまわしたために,全体として総支出額が予算より大きくなった.
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次年度使用額の使用計画 |
来年度はフランスで国際会議が予定されている.前年度でランプを購入した分物品費が押さえられるので,成果発表のための旅費に使用する予定である.
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