ガスとの反応によるガラスの光学機能創出を念頭に,水素ガスのガラスへの移動・反応メカニズムを明らかにすることを研究の目的とした.ガラスの光学的性質はドープされた金属イオンの価数に大きく依存しており,その価数を下げる(還元)することができればガラスの応用が著しく拡大すると期待されている.金属イオンを還元する方法として水素雰囲気下でのガラスの加熱処理が考えられるが,一般にガラス中への水素の移動速度が小さく実際に検討された例はない.本研究はEu3+およびCu2+イオンをドープしたNa2O・Al2O3・SiO2系ガラスでの水素による金属イオンの還元の可能性を調べた. 本年度はCu2+ イオンをドープしたNa2O・Al2O3・SiO2ガラスの水素との反応を調べた.Cu2+ イオンが還元され銅ナノ粒子が析出するが,その析出状態はガラス組成,とりわけAl3+/Na+量比の影響を強く受けることが分かった.即ちAl3+/Na+<1の組成のガラスでは,銅ナノ粒子がガラス内に留まって成長するのに対し,Al3+/Na+>1のガラスでは,還元された銅原子がガラス表面にまで移動し,そこでナノ粒子として成長析出することを見出した. 一方,Eu3+イオンをドープしたNa2O・Al2O3・SiO2系ガラスについて調べたところ,Al3+/Na+<1の組成のガラスを水素中で長時間加熱しても変化することはなく,Eu3+イオンのままであったのに対し,Al3+/Na+>1の組成のガラスでは,Eu2+イオンに還元されることを見出した.以上の実験からNa2O・Al2O3・SiO2系ガラスにおける金属イオンの還元にはAl3+イオンが重要な役割を果たしAl3+/Na+量比が1より大きいガラスでなければならないことがわかった.更にAl3+/Na+>1の組成のガラス中での金属イオンの還元にともなってAlOH基が生成することも見出し,ガラスの水素との反応機構を明らかにすることができた.
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